第三十話――邂逅
勇猛果敢に魔物を滅する天使部隊は無限にワラワラと湧き出てくる魔物との全面対決を開始し、
堕天男としては新たに憶えた
「なるべく魔物を攻撃しないようにしましょう。うまく天使たちと潰しあうように仕向けるのです」
と、シー。先ほどあれほど魔物を大量虐殺した人間、いや魔族の台詞とは思えない。
「いくぞ、アウトノア君!」
「はい、隊長!」
デカトリースとアウトノアは、全高三十メートルはある漆黒の竜の魔物――
「ハアアアアアア!」
「ホオオオオオオ!」
息をぴったりと合わせ、同時に叫ぶ。
「「神技『
次の瞬間、暗黒竜は十字状に切り裂かれ、きれいに四等分され、絶命していた――
「十字架の重みに耐えきれなかったか……アーメン」
崩れゆく暗黒竜を哀れみながら、デカトリースが胸の前で十字を切った。
個々の戦闘能力では魔物よりも天使たちの方に分があるようだ。
しかし魔物は倒しても倒しても無数に沸いて出てくるため、いつかは数で押しきられるかもしれない。
シーは堕天男の手を引っぱって幻惑魔法で自分たちの姿を隠し、第一世界への扉がある魔王城まで疾駆しながら、思考する。
なぜ天使たちは、堕天男がこの第二世界へ来たことを知っている?
こんなところで人間を〈労働刑〉に課せば、棲息する化物たちにたちまち食い殺されてしまい、収容所としての機能を果たせないからだ。
それ以前――堕天男が第二世界に来る前から、彼の存在に気づいていた……?
……もしかしたら、師のところにも教団の刺客が?
まさかあの師匠が、天使ども相手に遅れをとることはないとは思うが……
「うう〜……やっぱり気持ち悪い……」
そんなことを考えながら走っていたら、ゲロを吐きにメグロスが、運悪くこちらへと近づいてきた――
「オエェェェ……!」
空を飛びながら散布した
「うっ……く、臭っ……!」
あまりの悪臭に集中力が乱れたのか、シーの展開していた幻惑魔法が一瞬乱れ、ふたりの姿が露わになった――!
「あ〜! お、お前らは〜!」
まるでコメディ小説のような展開だったが、これはまごうことなき現実。
シーは即座に思考を切り替え、戦闘体制へと移行。
「『
一切の手加減なく放たれた光の榴弾を、しかしメグロスは二日酔いの割に素早い動きで
「見〜つけ〜たぞォ〜? 堕天男〜」
そしてやってくる、
「労働に耐えられずに逃げ出すとは、なあんと情けない! まずは三年我慢するのが社会人の常識だぞオ〜」
天使デカトリースは、まるでブラック企業の上司さながらの台詞を吐き。
背負った社会人精神注入棒を抜き、堕天男目がけて、飛びこんできた!
「『
「遅いッ!」
シーの放った風の刃を、空中で急激に進行方向を変えるという物理的にありえない動きで回避する、デカトリース。
「『
しかし回避した先に放たれし、その漆黒の光線に。
「ウオオオオオオ――⁉︎」
デカトリースは驚いたのか、眼を丸くして大慌てで回避した。
「ち。外したか」
舌打ちしながら、堕天男は思った。
この慌てようからして、
「とうとう
「囚人以下の生活を強いられていたからな」
皮肉たっぷりに返答する堕天男に、しかしデカトリース。
「堕天男。可愛い部下よ。お前は重大な勘違いをしている。労働とは、人間に与えられた罰ではない。私とともにビックリカメラでやり直そうじゃあないか。今ここでおとなしく降伏すれば、悪いようにはしない。労働は素晴らしいぞ〜。やりがいのある、アットホームな職場だぞ〜。休日は皆で楽しくフットサルできるぞ〜」
ペッ! と、堕天男は胸の内で唾を吐いた。
骨の髄までブラック企業戦士と化してしまった
「堕天男。冷静に」
シーのひと声によって、堕天男の頭は急激に
そうだ。魔物たち相手に戦力を割いているとはいえ、相手は百体の天使部隊。
さっさとブリーゼのいる第一世界に脱出し、何とかしてもらうべきなのだ。
ふいに、群れの中の魔物が何匹か、デカトリースに襲いかかる。
「社会人をナメるんじゃない!」
天使デカトリースは社会人精神注入棒(木刀)で魔物を真っ二つに切り裂いた。
「死ね――『
一瞬の隙を突いたつもりだったが、しかしデカトリースは軟体動物の如き気持ち悪い動き――腰を百八十度後方にグリン! と折り曲げ、死を回避した。
擬態だったとはいえ、もともと人間の姿をしていた
「大人しく第三世界に戻るのだ、堕天男。またたっぷりと社会教育してやるぞ〜」
「その前に闇に葬ってやるぜ。クソ店長」
右手から立ちのぼる漆黒の
「ハアアアアアアッ!」
「雑魚に用はありません――『
「甘いッ!」
完全に格下と見くびっていたのか、予想外に機敏な動きで己の背後に回りこんだ
そして、身の丈以上もある
シーの上半身と下半身が、
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