宇宙戦艦の初体験

 寝起きから良くわからんイベントが続いたので

 気を取り直して改めて状況を確認しよう。


「カスミ、俺が眠っている間に変わったことは無かったか?」


 そう質問すると


「マスターが低活動状態に入り、

 簡易メンテナンスの後に復帰するまで20時間31分27秒経過しています」


 結構、眠ったな。

 おかげで頭がスッキリした。


「マスターの非活性状態の間に報告すべきレベルの異常はありませんでした」


 さて、必要最低限な事だけは昨日確認した。

 まず、昨日のおさらいから始めるとしよう。


 えーと。


 初めに俺はヒュウガ級宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』である。


 ……


 ……


 ……


 冷静に考えれば何だよ、宇宙戦艦って、正気か?


 何か手の込んだドッキリじゃないのか?


 そうだ、そうでしょう? なーんだすっかりヤられましたわー。


 もー、ホントに信じちゃう所でしたよー。



「カメラどこ? どっかで見てるんでしょう? おーい」


 そう言って部屋の真ん中に立ち、四方に向けて手を振ってみる。


「マスター、言動が不明です」


 と、カスミ(自称)が声をかけてきた。


「もー、お姉さんも人が悪いなー。ドッキリなんでしょう? コレ?

 どこのテレビ? いつ放送すんの? もう分かってるんですよ、俺」


 部屋の中をキョロキョロ見回しながら返事をした。


「マスターの思考ルーチンに通常ではない逸脱が認められます。

 ウイルススキャンを実行しますか?」


 昨日と同じよくわからん問いかけが来たので

 カスミの方にくるりと顔を向けて


「おう!じゃあ、いっちょお願いしちゃおうかなウイルススキャンとやらを。

 シャーコラァ!かかってこいやぁ!!」


 と、勢いで啖呵を切った直後、


「ウイルススキャンを実行します」


 と、カスミの声が


「おっおおおぅううううんぇぇぇぇ!! おっほおっほぅ! あっあっあっ! ああああはぁんんんぇぇぇぁぁぃおっふぅ!!!」


 そして、あらんかぎりの雄叫びを上げる俺。


 得も言われぬ弱い痛みと激しい快楽と強敵とも達との闘いで学んだ哀しみなどが渾然一体となった生まれてこの方、味わった事の無いの感覚が怒涛の如く体の内側から大空へ駆け巡る大都会。この裏切りの街では悦楽と絶望がひとつになって過ぎ行く時など判るまい。


 目の焦点が合わなくなり、腰が砕けて既に膝立ちだ。

 全く未知の感覚の波状攻撃に耐えられる筈もなく、さらにそのまま床に突っ伏した。

 薄れる意識の中で、会社の健康診断で硬いベットの上に横たわり消毒液の臭いを嗅ぎながら、妙齢の女医さんに直腸検査で生まれて初めて大切なものを奪われたあの日がフラッシュバックする。


 そして俺は確信した。


「やっぱり、現実だったかー、まあそうなるよねー」

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