宇宙戦艦のメイドさん

 目が覚めると見知らぬ天井があった。


 ああ、昨日はここで眠ったのか――

 と、少しまどろみながら考えていると、



「お目覚めですか、マスター」



 とカスミの声が聞こえた。



 …………



 何か話さないといけない事があるような気がするが、何も思い出せない。


 思い出せないなら必要がないのだろう。そう考えながら椅子から体を起こした。



「水でもお飲みになりますか?」


 そういえば飲食が可能なのか? この身体。


「食べたり飲んだりできるの?」


「はい。通常の人間と同じように飲食が可能です」



 と、目の前に手が添えられた水の入った飾り気のないガラスのコップが差し出される。

 そのままコップを受け取り、水を飲もうとし……



 え?


 わずかに動揺してコップを落としそうになりながら、

 手が差し出された方向に目を向けると



 メイドさんがいた。



「だ、誰!?」



 突然現れたメイド(?) は誰かを確認するように後ろを振り向いた。


 お馴染みのボケをかます謎メイド。


「いや、お前だ。お前」


 と、メイドを指さす。


「カスミです」


「…………は?」


 …………


「カスミです」


 …………


 俺は手に持ったコップを一気にあおって水を飲みほした。


 少し落ち着いたので目の前のメイド改め自称カスミを見つめる。


 短い黒髪で整った顔立ちの小柄な少女が黒いメイド衣装に身を包み、

 銀のトレイをやや大きめの胸の前に抱えながら、

 ロングスカートの下から伸びるすらりした細い足で佇んでいた。


 ……………………


 控えめに表現して、とても驚いた。


 うん、これはイケナイ。

 かーなーり、いけませんぞ。

 バッチリ俺の好みであることよ。


 ありがとう! どこかの有志の人!

 さっきのぴっちりスーツを見せられた時は殺意が沸きましたが取り消します!

 最高です! 誰か知らないがあんたサイコーだよ! バンザーイ!


 頭の中で万歳三唱しながら

 完全にセクハラな思考を巡らせ、黙ってカスミを凝視していると


「あの……」


 沈黙に耐えられずにカスミが声を上げた。


「あ、ああ。 すまん、ちょっと驚いただけだ」


 そう、慌てて答えると


「もし、お気に召さないようであれば別の姿に変えることが可能です」


 と、次の瞬間、目の前に人の姿が立体映像で映し出された。



 突如、空中に表示されたのはスラリとした大人の女性の姿だった。


 ……ただし、

 全身が青黒く黒光りした金属に身を包まれて、

 肩には鋭いトゲを生やしつつ、顔は光った眼だけの坊主頭だが。


 うん、全身真っ赤なフラグクラッシャーの頼れる相棒だね、コレは。


 前言撤回。誰か知らんがこれ考えたやつ絶対に*す。


 念のため、自分の左手首に手をかけて引っ張り、

 左腕にサイコな銃が仕込まれていないか確認していると


「他にもお望みがあれば、ご指定通りの形態に変更可能ですが…………」


 と、カスミが躊躇いがちに問いかけた


「いや! いい! そのままでいい!

 俺はその姿が良いんだ。そのままでいてくれ!」


 俺が慌てて止めると


「はい、了解しました。 マスターの希望通りにこの形態を維持します」


 と、カスミが答えた。



 改めてみたカスミは相変わらず声に抑揚がなく、

 無表情の筈なのに何故かすこし喜んでいる様に見えた。

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