宇宙戦艦の異世界
辛うじて純情男子のデリケートな部分を隠していた布さえ失い、一糸まとわぬ親にもらった生まれたままの裸体を晒した俺に対して間髪入れずに周囲から謎の光の粒子が殺到した。
「うわわわわっ!!」
動揺する間も無く、身体の表面全体が光に包まれるとそれらが即時に衣服の形を取り始める。
瞬く間に体を覆う光が白のTシャツに濃紺の細身のブルージーンズと黒い革のベルトへと姿を変えた。
完全に光が収まると俺は自分の身に着けているものが取り敢えずまともそうな21世紀の服装への変更が完了した事を認識する。しかし、まだ油断は出来ないので即座に自分の身体を見て服装におかしなところが無いかチェックを開始した。
サイズは……問題なくぴったりだ。
次に自分が来ている服が指定した通りのものか確認する。Tシャツがノースリーブだったり、マンガに出てくる安っぽい野盗よろしく肩がギザギザで無いか確認し、穴が開いていたり丈足らずでないか調べ、さらに念のため「変態外人」とか「熊出没注意」とかイケてないロゴが存在しないことを目視した。
続いてジーンズがパンク兄ちゃん風味に穴が開いているとか、田舎ヤンキー御用達の派手な昇り龍の刺繍とかが入っていないかをチェックする。
そうして暫くの間、念入りに自分の服装を点検するが少なくとも俺の基準では特におかしなところは見受けられなかった。
どうやら、オーダー通りの服装ではあるようだが……。
しかし、まだ安心はできない。
ジーンズの前を上から少し開けて中を覗き込み腹から下を見る。パンツは……OK。普通の黒いボクサーパンツだ。ブーメランや紐パンでなく穴も開いていないことに安堵する。
最後に魔法少女風強制瞬間衣装換装のトラウマから頭や腰に機能性皆無のヒラヒラや装飾過剰な巨大リボンが付いていないか確認した。
<汎用量子定着装置による指定着衣の生成シーケンスが完了しました>
俺の疑心暗鬼に満ちたファッションチェックが終わると同時にカスミが声をかけてきた。
「あ。ああ、問題ない。ありがとう」
彼女に対して疑いの心を抱いていた俺はなんとなくばつが悪い感じを覚えながらもそう言葉を返す。
<…………>
ん、反応がないぞ。どうしたんだ。
「おーい。大丈夫か? 問題なく終わったんだよな?」
<……着衣の選定に問題があればまたご用命ください>
「ああ、これで指定通りだよ。すまないな」
<…………了解しました>
また、反応が遅れた。どこかラグってるのか?
もしやこれらの一連の作業で何らかの形で負荷がかかってしまったのだろうか。散々、不満を述べてきたがここで彼女に機能停止でもされたら今度こそ万事休すだ。
そう考えた俺はぎこちないながらもやんわりとした感じでカスミに話しかけた。
「もし疲れたのなら休んでいいぞ」
つーか、俺も精神的に疲れた。目覚めていきなり怒涛の展開がめじろ押しで頭の中がパンク寸前である。
といっても、この身体、どこまで耐えられのだろう? もしや食事も睡眠も必要ないのではないか?
精神的な疲労とはうらはらに身体は今まで生きた中でも最も調子がよく、どこにも痛みや疲労も感じない。逆に活力が漲って今すぐ全力で辺りを駆け回っても問題が無いくらいだ。
そんな考えをあれこれ巡らせているとカスミが答えた。
<いえ、問題ありません。他に何かご用命がありますでしょうか?>
ご用明ねぇ……正直聞きたいことはまだ山ほどあるのだが。
しかし、目覚めてからいろんなイベントが盛りだくさんでお腹いっぱいなので一度休息して仕切り直しを要求したいところだ。
そうだな……ああ、そうだ。
休む前に最後に確認しなければいけない事が残っていた。
「じゃあ、最後に重要な確認なんだが…………ここは地球じゃないのか?」
<再起動からこの惑星の現在位置にとどまって5年の間、周辺環境の情報収集を行った結果、惑星環境が重力、算定惑星質量、自転周期、大気構成が地球と99%一致する一方で、ここでの天体の観測結果が地球上での天体観測記録情報と全く一致しませんでした>
ふむふむ…………
<単純に考えられる仮定としては我々が漂流している間に銀河系が他銀河と衝突したことにより地球の位置が変化した、もしくは偶然、地球と全く同じ環境の惑星に不時着したなどがありますが、それらの可能性は限りなく0%に近いと思われます>
へー…………
<最も可能性のある仮定はここが我々の生まれた世界と異なる宇宙の並行世界の地球であると判断します>
ほうほう、なるほどそうなんだー。
…………
………………
……………………
…………………………
……え。マジっすか。
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