宇宙戦艦のコスプレ
「はあ……はあ……はあ……」
意識のみで身体が存在しないので呼吸とかしていないにもかかわらず息切れするようなこの疲労感は何だ……
よくよく考えればまだ目覚めて数時間しか経過していないのに物凄くツッコミばかりしている気がする。
一度このバカAIに人間としての常識を叩き込んでおく必要があるな。
「おい、バカAI!」
<…………>
「おいっ!」
<…………>
「おおいっ! 返事しろ!」
<…………>
「……えーと『カスミ』だっけ?」
<何でしょう?マスター>
こいつは……
そのうち必ず懲らしめてやる……
<何でしょう? マスター>
「あー、複数の視界だと混乱するのでとりま、今いる部屋だけ見せて頂けますでしょうか?」
<了解しました。中央制御室の映像を表示します>
パッと目の前が明るくなりようやくまともに頭で認識できる視界が確保できたが、空中に自分の体が浮いているような不自然な感覚に戸惑い脳の処理が付いていかない。
その後、しばらく頭の中でいろいろと思考による制御を試した結果、自分の足で直立した時の高さに視点を維持することが出来た。次にその状態を保ち続けるようにしているとようやくこの感覚に慣れ、なんとか自分の意志で視点を自由に変更できるようになってきたので多少まごつきながら改めて正面を向いて部屋の様子を確認する。
目覚めてから最初に自分の視点で直に見えたのは複数の鈍く光る半透明のコンソールが空中に浮かぶ部屋だった。俺は映画やアニメのようなSFチックな光景に内心驚きつつ空中に浮かぶコンソールを眺める。コンソールには意味不明の数字と英語が並び、折れ線グラフや円グラフがせわしなく変化している様子が映し出されているのが見て取れた。
俺は次に部屋の全てを見渡すように視点を一回転させる。
部屋全体は乳白色の金属の壁で構成され、天井と壁全体がうっすら光っているようで床には影が見えない。床にはチリ一つなく新品同様に見えるクリーンな部屋であるが、そこには宇宙船の各種情報を示しているであろう先ほどのコンソール群と主のいないフラットな椅子が数個あるきりで、人気も余計な家具すら一切見当たらない生活感皆無の引っ越し直後のデザインオフィスのような寂しい光景が広がっていた。
部屋の中央には他と同様に乳白色の金属で構成されたキングサイズ程度の上半分がガラスのような透明な蓋でおおわれているカプセルが鎮座しているのが見て取れる。
俺は視点をそちらに向けて良く観察するとカプセルの中に何やら人影が存在しているのが確認できた。
「あのカプセルの中の人影は何だ?」
<あれはマスターの高密度擬似ゲノム細胞化複合有機シリコン製人型インターフェースです>
「へー」
――人型インターフェース。
要するに今の意識だけの状態でなく現実世界で活動するための自分の分身であろう。
おそらくこれに自分の意識をリンクさせれば俺はめでたく現世にジーザス・クライストよろしく再降臨できるのだ。
いい加減、この成仏できない浮遊霊のような状態では落ち着かないので一刻も早く人間の身体を得て自分の二本の足で地面を踏みしめて歩きたい。
自分の身体は前述の通り過酷な宇宙環境に耐えられないのでとっくの昔に破棄されている事であるし、この期に及んで贅沢を言うつもりもない。こうしてかりそめの身体とは言え既に代わりが用意されているだけでも取り敢えず良しとしよう。
ただ、ほんの少しだけ欲を言えばなるたけイケメン風味となっている事を願いたい。
俺は今から自分が現世に受肉してお世話になる肉体を確認するため、視点をカプセルに近づけて中を覗き込んだ。
カプセルの中には黒髪のアジア系の人間(に似た物体)が目を閉じて横たわっているのが見えた。
どうやら日本人の様だが……いきなりスラッとした白人やマッチョな黒人にされても違和感しかないので良しとしよう。
背格好は中肉中背で1960年代のアメコミでみたような真っ赤なぴっちりスーツを体に着け、ド派手な金色のベルトを巻いている。どんなファッションセンスなんだ……23世紀って。
ぴっちりスーツのせいで身体の線が露になっており、薄い胸と殊更に存在を主張する股間の膨らみからみると男性のようだ。
まあ、女の子にされてもこま…………困るな。
それと……ええと顔は……うん、普通。チョー普通だな。
「って俺じゃん!」
記憶にある自分の顔の肉体でぴっちり全身タイツの横臥である。
途端に沸き起こる激しい羞恥。
そして脳裏によぎる仁王立ちの宇○井健のスー○ー○ャイアンツ。
「なななな! 何であの装いなのですか!?」
動揺して言葉が乱れる俺。
<人型インターフェースをデザインした有志の一人がこの衣装でなければ協力を断ると譲らなかった……と設計時の記録にはあります>
ちくしょう!!
マー○ルコミックマニアめ!!
せめてス○ーウ○ーズに寄せろよ!!
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