宇宙戦艦の人間失格
とりあえず、頭に突っ込まれた情報だけではイミフなので手当たり次第に確認することにした。
「で、宇宙戦艦って何?
地球連○軍とどっかのコロニーとかが宇宙戦争でも始めたんか?」
<いいえ、
人類が木星軌道までコロニーを建設した結果、
人口が1000億を突破しました。
2200年に太陽系憲章が地球、月、火星と各コロニーで締結され、
特に軍事衝突もなく平和的に秩序を保っていました>
「じゃあなんで宇宙戦艦なんて造ってるんだよ」
<民間企業のゲームコンテンツ『軍艦これくしょん』(通称『軍これ』)の
240周年記念イベント『彗星カーニバル』の記念艦として
クラウドファンディングによる資金提供で宇宙戦艦『ヒュウガ』は建造されました>
「『軍これ』かよ!! どんだけ長寿コンテンツなのアレ!!」
しかもクラウドファンディングかよ! 平和だな!
<日本の首都メガロポリス岡山でクラウドファンディング達成が…>
「待った!」
…………
「メガロポリス岡山って何?」
<日本の首都は2100年に岡山に遷都しました>
「え、東京はどうなったの?」
<2083年に発生した関東周辺の地殻変動により東京と千葉は島となり、
その後、関東自治州として独立しました>
「ぶっ!!」
何それ。なに関東自治州って?
2メートルを超える巨人がジャックナイフ片手に暴れ回ってるんじゃないの?
「えーと……」
<日本の首都メガロポリス岡山でクラウドファンディング達成が発表された後、
太陽系各地より終結した有志により最新鋭の宇宙航空技術が導入された
宇宙戦艦『ヒュウガ』が設計されました>
スルー力高いな、このAI。
<名目上、太陽系外惑星探査ミッションと地球外生命体調査ミッションが組み込まれ、また、最低限の自己防御能力も必要とのことで太陽系連合宇宙防衛軍が全面的に協力した結果として、
23世紀で最も高機能な惑星探査宇宙船かつ、一部有志の異常な情熱により厳選された防衛兵器を搭載した人類史上最強の宇宙戦艦が建造されました>
「はあ。もうなにがなんだか……」
<結果として余りにも能力過剰な最終宇宙兵器が誕生してしまい、
建造が終わってから冷静になった軍部と有志が暴走を恐れた結果、
その制御に人間による倫理的最終制御装置が急遽追加されました>
「……で、その人柱が俺って訳か」
……
…………
………………
「ううっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!!!」
<マスターの精神記録パルスに異常波が観測されました。精神鎮静(中)プログラムを実行しますか?>
「いらん! なんだよ(中)って。だから何の基準なんだよ!」
……いかん、完全に相手のペースだ。何が目的だか皆目見当もつかないが。
落ち着け……落ち着くんだ俺。まだ焦る時間じゃない。
「分かった。分かりたくないけど分かることにする。」
取り敢えず次の質問だ。
「で、俺って何? 人間じゃないの?」
<長期的な恒星間航行のため宇宙線に耐えられないマスターの肉体は破棄され、
頭脳のみ段階的に完璧に複製された
有機ケイ素高密度擬似ゲノム細胞による合成頭脳に移管されました>
「やったーーー! 俺死んだーーーーー!」
やっぱりね。宇宙戦艦って何だよって感じだもん。
宇宙線とか放射能とか考えればそうなるよね。
……はあ。死んだかー。
いや、宇宙戦艦として生き返った?
生きた気がしねぇ…………
<オリジナルのDNAは冷凍保存され、
またそれとは別に解析済みのDNAがアーカイブに記録されているので
地球人類が生存可能な安全な環境が確保されれば、
超密度有機体量子合成装置により通常の人間として回復することが可能です>
「え? オ…レ………モ…ドレる………ニンゲ…ン?」
いかん。動揺してカタコトになってしまった。
<マスターの言語制御回路に異常が認められます。
ウイルススキャンを実行しますか?>
「いらんわ! 正常な一般成年男性の反応じゃい!」
次はウイルススキャンかい。まさか人格ごと消去するんじゃないだろうな。
23世紀のウイルスってどんだけだよ、まだあるんかいコンピューターウイルスが。
つーか、23世紀とかの科学技術が自分の知識と懸絶しすぎて理解できん。
……とここまで全く五感が検知できないのに気が付いた。
いい加減、自分の目で現状を確認しないとな。
「聞きたいことはまだあるが、一旦保留。
とりあえず、目が見えるようにしてくれ。」
<了解しました。艦内の映像回路を接続します>
「え?」
その刹那、自分の視界に人間の認識を超えた大量の映像が投影された。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気持ち悪りぃぃぃぃ!!!!
艦外の青い空に輝く太陽や空に浮かぶ雲や深い緑の森林と流れる河川。
その森の舗装されていない道を歩く幾つかの人影。
艦内の鈍い光沢のある金属の壁で囲まれた空き部屋や轟音が響く機関室らしき部屋。
怪しげな水槽の並ぶ部屋や電源が落ちたコンソールが並ぶ薄暗い部屋。
どこかの部屋をうろつく見たこともない獣や直立歩行している人間らしきもの。
――それらの映像が一斉に目の前に投影された。
「ストッーーーーーープ!! 止めて! 止めてーーーー!」
必死に叫ぶと次の瞬間、元の暗闇に戻る。
この野郎、わざとじゃないだろうな。いや女だから女郎……
などど、俺は夜空に瞬く星の如くあてどもない思考を巡らせながらこの不思議ちゃんAIに対しての不安感が増大してゆくのを抑える事が出来ないのであった。
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