スケルトン成長記録三日目〜四日目

スケルトン成長記録三日目

〜村襲撃中〜


感情に目覚めたスケルトンは、その場でケタケタと笑う。そして直ぐに残りの村人に視線を移す。


殺されると思ったのか村人達は咄嗟に『松明を持て』と全員で指示を出し合い、魔物が本来恐れるであろう炎を振り回す。


しかしスケルトンは恐れなかった。今やスケルトンには人間に対する脅威を感じないからだ。炎に包まれ死のうがまた復活できる。そうスケルトンは考える。


今スケルトンが感じている感情。楽しさとは、戦闘の楽しさでは無く、成長による高揚感である。


それは、今いる全て村人を殺せば更にどれだけ成長出来るのかと言う期待だ。


村人は残り六人。スケルトンは一気に仕留めようと考える。その方法は、『怒りによる一斉攻撃を狙う』だ。


スケルトンは、先程殺した妻と娘を槍で突き刺し、勢いよく村人の前に投げ、またケタケタ笑う。


案の定村人は、その行動に舐められたと感じたのか、『殺せ!』と叫び、全員六人、松明を持って一斉突進する。怒った村人は最早取り囲むという考えはしなかった。正面から突進だ。


スケルトンは、その一斉突進に笑いながら簡単に村人達の背後へ飛び越える。


そして、埋葬のシンボルとなっていた炎に包まれた大きな柱の焚き火を軽く後ろから槍で突き、柱はゆっくりと村人達に倒れる。


村人達はは、スケルトンの戦闘知能に驚きながらも、倒れてくる柱に為す術も無く、一気に炎に包まれ、悲痛な声を叫び散らす。


叫ぶ者が居なくなり静かになった丸焦げの村人からスケルトンは魔素を吸収する。


そこで習得した力は『意思疎通』と『言語理解』。スケルトンは「カラカラ」としか言葉を発する事はできないが、この意思疎通により、相手に理解してもらえるという訳だ。


スケルトンはそろそろ来る日の出の時間に気付く。村人の家に入り、誰が見ても違和感の無い服を着て、また次の夜を待った。



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スケルトン成長記録四日目


初めて死なずに一日を過ごした事にスケルトンは少し嬉しく思う。


スケルトンが村の家で手に入れた服とは、村人の来ていたTシャツとズボン、全身を覆い隠せるマント、首を隠せるマフラー、頭を隠せるフード。


いくら殺せば良いと思ってもここまで人が少ない村はここだけであり、次の村や町では少なくとも百人以上は予想できる為、少しでも人間と溶け込む事で、活動しやすくなるとスケルトンは考えた。


スケルトンは次なる成長の為、今の地点から少し見える街の景色に向かって歩き出す。


そこそこ長い距離を歩いて街に到着。スケルトンは、何事も無い事を祈りながら街へ足を進めると目の前の光景にピタリと足を止める。


検問だ。


どうやらスケルトンが襲った村は、スケルトンが次の夜を待っている間にその惨状を発見され、村に一番近いこの街は厳重警戒が敷かれていた。


スケルトンはフードを深く被り、下を向きながら検問所を通ろうとする。


しかしやはり止められた。


「はい。顔はしっかり見せて下さい。不審者が居ると困るからね」

「カラカラ……(顔は酷く荒れてる。陽の光に当たってはいけない……)」

「あぁ、それはすみませんねぇ。なら身分証明書とか持ってます?」

「カタカタ……(村を追放された。この顔がその結果……)」

「つまり、身分を証明出来る物は無いと?うーん……なら、『手』見せてくれる?指紋とるだけだから」

「カタカタ?(骨の手でも指紋は取れるのか?)」

「あぁ、なるほどね。分かった。門を通ったら直ぐに救護室に入って下さい。本来、検問所を通過した人にはこのドッグタグを首に掛けて貰うんだけど……君にはまだ渡せない。門を通ったら直ぐ右の扉ね?はい次の方〜」


予想以上の厳戒態勢でスケルトンは驚く。素直に救護室に入った。


救護室に入ると直ぐに気だるそうな白衣を着た眼鏡の男。救護担当が迎える。


「はいはい……此処は救護室だけど……君はどうしたのかな?」


スケルトンは救護担当に検問所であった事情を話した。


「あーなるほどね。じゃあ、フード外せる?君の顔の状態を見たいんだけど……」


スケルトンは、何も躊躇わずフードを外し頭蓋骨を露わにする。


「カラカラ……」

「うお!?えっとー……まさか君って……」

「カラカラ(スケルトンだ。騒ぐな)」


ここでスケルトンは一つ作戦を考える。これからスケルトンはこの街に潜入し、成長の為に人間の殺害をするが、今此処で見つかっては全てが無意味となる。つまりこの救護担当をこの場で口封じするか、殺すか。


今救護室にはスケルトンと救護担当しか居ない。殺しても直ぐに隠せば問題ないと。


「う、うん……君はどうしてこの街に……?」

「カラ……カラ(人間を……殺す)」

「あーうん。魔物が考える事はやっぱりそうだよね。なら僕はどうしたら良いんだい?」

「カラカラ(俺の行動を黙ってタグを渡すか、許さないのなら此処で殺す……)」


スケルトンは、救護担当の選択を黙って聞く。


「そうか……分かった……。人間と会話できる君なら分かるよね?僕はこれでも救護担当なんだ。人の命を助けるのが仕事。当然殺す事は許されない。だから僕は今此処で君に殺される選択をするよ……。通報するなら君の顔を見た瞬間にするべきだった。でももう遅い。僕が通報するなら直ぐ様君は僕を殺すだろう。僕だって君に抵抗する力は無い。さあ、殺してくれ……」

「カラカラ……(分かった。殺す)」


スケルトンは救護担当の選択に頷き静かに骨の槍で心臓を貫く。


救護担当は苦しむ声も上げる事なく絶命した。力なく倒れこむ救護担当からスケルトンは魔素を吸収すると、死体からドッグタグを回収し、救護室の奥、隔離室に鍵を閉めて隠した。


タグを手に入れたスケルトンは、これにて潜入活動が始まった。これからこの街に潜入しながら自分を成長させようと考えるが、空を見上げて日の出が近い事を確認した。


まず潜入するには、人間とほぼ違いない活動をしなければならない。それにはお金が必要不可欠である。


スケルトンは、まだ自分の姿を完全に隠しきれていないので、最初から家の中に隠れるのでは無く、人気の無い路地裏の角で座り込んだ。


人気が無い上に夜中はほぼ暗闇に近い。例え真昼間でもただの呑んだくれにしか見えない。


スケルトンは、その場所で次の夜を待つ。



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スケルトン成長記録四日目


真夜中の夜、スケルトンは暗闇の中で目を覚ます。


今の時間ならまだ武器屋や施設は閉まっていない。武器屋に通う理由は一つ。潜入活動で成長を見込む方法として、『暗殺』が最も安全で確実に魔素を吸収出来る。


しかし、今スケルトンが持っている骨の槍では申し分無い。リーチも長く威力もそこそこだが、確実に相手の息の根を瞬時に仕留めるには向いていない。逆に骨の槍で暗殺しようものなら、人間に不必要な痛みを与え、大声で叫ばれてしまう。


ならば求める武器は、リーチは相手とはゼロ距離が適切で、威力は確実に人間の急所を貫ける鋭さが望むところだ。


金ならその殺した人間から奪えば良い。武器屋の店主にはツケを頼めば良い。


スケルトンは武器屋へ移動する。


「いらっしゃい……何か欲しいもんがあるのか……」


武器屋へ入ると、カウンター奥の椅子に座った毛深い無愛想な男店主がスケルトンを睨みながら反応する。


「カラカラ……(武器が欲しい。これくらいの……)」


スケルトンは欲しい武器の形と用途を説明すると、店主は面倒臭そうに椅子から立ち上がり奥の部屋へ入ると、すぐにスケルトンの求める武器を強くカウンター叩きつけながら戻ってきた。


「これで良いだろ。さ、金を渡せ」


スケルトンの求める武器とは短剣の事だった。最も敵との距離を縮め、素早く仕留められる武器……。


料金を求める店主だが、生憎スケルトンは金を持っていなかった。いや、人から奪うつもりだからだ。


「カタカタ……(今は金を持ち合わせていない。後で払う」


払う金は無いとスケルトンは答えると店主の表情が一気に暗くなる。


「あ?てめぇ、冷やかしか?すまねぇがそんなサービスはこの店には無いんだけどな」

「カタカタ……(安心しろ。この倍は払ってやる)」

「へっ……おめぇ、なかなか肝座ってんな。良いだろう。それなら許してやる。だが……払わなかったら通報するぞ」

「カタ……(分かっている)」


スケルトンは店主から武器を貰うと、武器屋を後にした。


さぁ、いよいよ活動開始だと意気込むスケルトンだが、今のスケルトンに『通報』という行動は、活動が難航する原因になり兼ねない。武器屋店主と約束した「ツケの倍は払う」は何としても果たさなければならない。


倍と言ってもそこら辺人間を一人殺して財布の中身を全部盗めばそれ相当の額に達するだろう。しかしスケルトンはあの店主はそれでは納得しないと思う。


そんなスケルトンの頭に過ぎるのは、魔王の顔だった。例え四日前に召喚されたばかりでも、魔王の厳しさはすぐに分かる。命令した事以上の結果を成さなければならないと。


今回の魔王の命令は『強くなれ』だ。一見は普通に聞こえるが、この命令には魔王が満足する程に強くならなければ、戻っても消されると分かる。


そんな魔王の性格と武器屋店主を重ねるならば、普通の人間では足りない。せめて金の持ってそうな人間なら良いだろう。


スケルトンは考えた事を直ぐに行動へ移す。金を持ってそうな人間がいるとすれば、武器屋からでも見える大きな豪邸だろう。スケルトンは真っ直ぐ豪邸の方へ向かう。

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