魔物達の成長記録

Leiren Storathijs

スケルトン編

一体目 スケルトン 成長記録一日目〜三日目

スケルトン成長記録一日目


魔王による魔物達の成長記録。一体目は骨の魔物。スケルトンだ。


スケルトンは、全く変哲も無い動く骸骨だ。夜中に地面から這い上がり、夜道を歩く人間を襲う。いや、それしか無い。


スケルトンは勿論、骨なのだから内臓も無ければ、脳味噌も無い。更にカルシウム不足と言わんばかりのカスカスの骨。


ちょっと殴っただけでバラバラに砕け、絶命する。


「カラカラ……」


そして知能も無い。人を襲うだけの意思しか持っていない。つまりこのまま世に放っても、夜道を彷徨いながら意味もなく絶命するだけ。


なので魔王はスケルトンに『強くなれ』と命令を与えた。そして特別な能力、『無限復活』を付与した。


無限復活とはその名の通り、無限に復活する。但し成長度は進化しない限り、ゼロとなる。進化さえしてしまえば、その進化過程から復活できる。


また進化とは、種族のタイプが変化する事も進化だが無限復活によってゼロになる成長度とは『成長途中』の事であって、少しでも体の大きさや硬さが変わればそれを進化という。


「カラカラ……!」


スケルトンは魔王に力を与えてくれた事に喜び、飛び跳ねはしゃぐ。


更に魔王はスケルトンに一つの手帳を手渡す。成長記録だ。ここに全ての行動、見たもの、起きた事を記入し、戻ってきた時に返して欲しいと命ずる。


そんなこんなで魔王はスケルトンに外へ出る事を命令した。



────────────────────────



魔界から出たスケルトンは昼から夜になった人間界に地面から這い出る。


外は月光が広大な草原を照らし、涼しい風が吹いていた。


「カラ……カラ」


そんな景色はどうでも良く、スケルトンは早速獲物を探し始める。


すると、最初に見つけたものは放牧された牛や豚の家畜だった。恐らくこれから元いた村に帰るのか、ばらけながらも家畜達は一つの方向へ向かっている。


「カラカラ!」


スケルトンはそんな家畜の行動意味も考えず、容赦無く自前の骨で作った鋭い槍で牛の体を貫く。


牛はあまりの激痛に鳴きながら暴れるが、スケルトンはしっかりしがみ付き、体に刺さった骨を暴れる牛の動きに合わせて肉を抉る。


段々弱ってきた牛は動きが鈍くなり、ゆっくりと横に倒れ、息を荒くする。


しかし、スケルトンはまだ生きている牛を確認すると、体に刺さった骨を押し込み、反対側から引き抜くと、最後のとどめとして頭部のこめかみ目掛けて骨で貫く。


「カラカラ!」


この魔物による『狩り』によって魔物は成長する……が、内臓を持っていないスケルトンは勿論この牛を喰らう事は出来ない。ならどうやって成長するか?


それは、この世界の植物や生物が絶命した際に出る『魔素』を吸収する事。


魔素によってスケルトンの骨は成長し、より硬くなる。


しっかり魔素を吸収したスケルトンは自身の成長にカタカタと顎を鳴らし笑う。


その時だった。家畜を無残に殺された飼い主は、成長に笑うスケルトンに気づかれぬようゆっくり背後から近づき、木刀を大きく振りかぶる。


スケルトンはその気配にも気付けずに、思いっきり頭蓋骨を砕かれた。



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スケルトン成長記録二日目


復活したスケルトンは夜の草原の地面から這い出る。


どうやら牛一匹の魔素では村人が振るう木刀に耐えられなかったようだ。


そんな事も気にしないスケルトンは、今日も獲物を探す。


生物や植物から出る魔素は、生物の方が大きい。更に動物よりも人間の方が大きい。


スケルトンは知能を持たない為、勿論記憶も無い。しかし、獲物を『殺す』という魂による意思があるため、無意識に同じルートを歩く習性がある。


つまり一種の記憶と言っても良い。スケルトンは昨日の家畜が居た方向へ歩く。


すると、昨日の夜家畜を殺されたせいかその男の飼い主が警戒し、今日は放牧せず魔物に備えていた。


飼い主は全身革防具に、片手に木刀と、しっかり装備は整えていた。


スケルトンは家畜飼い主を見据えると静かに顎を鳴らし、飼い主目掛けて一直線に骨の槍をを持って突進する。


スケルトンは筋肉は無くても形は人間とほぼ同じ。大きなダメージを与える力は無くとも、それはスピードで補える。


地面を骨の足で駆けるそのスピードは、無駄な筋肉や内臓が無く、風も骨の体を通り抜け抵抗が最小限で普通の人間より遥かに速い。


その骨の槍は、飼い主が反応するもそれは遅く、勢いよく槍は腹部から背中まで貫通する。


飼い主はあまりの衝撃に血を吐き出し、スケルトンの身体は血に濡れる。


「カラカラ……」


スケルトンは顎を鳴らし笑う。


骨の槍を更に押し込み、飼い主の体を槍で持ち上げる。


串刺しになった飼い主は息をヒューヒューともう生き絶える寸前だった。ただその目は怒り、スケルトンを睨んでいた。


スケルトンは、そんな飼い主の反応も一切の興味は無く、直ぐに槍を体から引き抜き、地面に仰向けに腹に穴を開けた飼い主に対し、躊躇なく槍で頭と地面を貫通させとどめを刺す。


スケルトンはすかさず魔素を吸収する。すると、スケルトンに若干の変化が訪れた。


スケルトンは、此処で初めて『知能』を習得した。人間を殺した事で多量の魔素を吸収したお陰だろう。


「カタカタカタ!」


それによってスケルトンに急激に情報が流れ込む。ただまだこのスケルトンには脳味噌が無い為、人間程の思考能力は無い。


今得る事が出来た知能と言えば、獲物を殺す意思と組み合わさった戦闘知能だろう。


戦闘知能を得る事が出来たスケルトンは、まるで何かから解放された様な、ほぼ放心とも言える状態でその場で立ち尽くす。


その時だった。飼い主を殺された家族が怒り狂った表情で、火の付いた棒をスケルトンに何本も投げる。


スケルトンは知能を得た事で投げられた事に気がつくが、何せスケルトンは火が弱点の為、攻撃をくらったスケルトンは、激しい炎に包まれながら消し炭となった。



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スケルトン成長記録三日目


復活したスケルトンは初めに顎を鳴らして笑う。遂に知能による記憶を得た事を。ただ記憶と言っても肝心の脳味噌が無い為、記憶保存量は一つのみ。


つまりスケルトンが今記憶しているものとは、『村の位置』である。


スケルトンは、たった一つの記憶と同じルートを歩くその習性を使って、村に向かって走る。


村に到着すると、村は妙に明るく光を発していた。丁度、殺された家畜の飼い主の埋葬をしている所だった。


村特有の大きな焚き火の埋葬を中心に周りには、村人数人と悲しみ嘆く飼い主の妻と娘がいた。


妻は伏せながら涙で地面を濡らし、娘は何が起きたのか分からず放心状態だった。


ただそんな光景をみた所でスケルトンが考え、反射的に取った行動は『獲物を殺す』。それだけだ。


スケルトンは、村人の集まりを見つけると直ぐ様そのど真ん中に突っ込む。


そして最初にスケルトンは、嘆く家族を二人組みを狙う。


スケルトンは助走と共に勢いよく高くジャンプし、地面に伏せる飼い主の妻をそのまま槍で背中から貫く。


妻は泣き叫ぶ声と共に急な事に人間とは思えない悲痛な声を上げる。


それにより村人達は一気に騒然とする。


そんな事も気にせずスケルトンは、更に槍を引き抜くと、絶望の表情で隣で立ち尽くす娘の喉を槍で貫く。


娘は声にもならない声を出し、咄嗟に槍を両手で掴み踠き苦しむ。


ただ完全に喉を貫かれている為、もう死んでいても可笑しくない。それでも弱い力でバタバタと足を揺らすその娘にスケルトンは顎を鳴らす。


喉に突き刺した槍を一旦引き抜き、瀕死に至った娘がうつ伏せに倒れると、槍をもう一度後頭部目掛けて突き刺す。娘は完全に絶命した。


戦闘中に人間二人の魔素吸収したスケルトンは、更なる成長を遂げる。


『感情』と戦闘知能に加え、『記憶容量の増加』に伴い、遂に魔物の『脳味噌』が生成された。更にこれによって『思考』も習得する。


スケルトンに更なる情報が一気に雪崩れ込む。


その時、スケルトンが始めた感じた感情は、『楽しい』であった。

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