日曜日Ⅲ

「ねえ、こうちゃん」


 七色先輩と何気なくテレビを見る午後のひと時。画面の中ではアメリカンコミックのスーパーヒーローがその人間離れした能力で悪い奴らをやっつけて、みんなを救いだしている。


「こんなふうにみんなを救ってくれるヒーローっていると思う?」


 僕は首を横に振る。これはフィクションであって、現実ではあり得ない。みんなでハッピーエンドを迎えることはなかなか難しい。


「そっかー、そうだよねぇ。世知辛いねぇ」


 先輩はまるで縁側のおばあちゃんみたいにしみじみと言う。コーヒーじゃなくて緑茶でも淹れてあげればよかった。


「ねえ、こうちゃん。心理テストしない?」


 突然の先輩の提案にびっくりしながらも僕は了承する。先輩が唇をひょいと尖らせ少し考えてから言った。


「もしさ、ひとりを助けたらほかの人が犠牲になるとしたら、こうちゃんならどっちを助ける?」


 難しい質問を投げかけられ僕は動きを止めた。それは状況にもよるだろうけど、できるだけ多くを救う選択肢を選びそうな気がする。「じゃあ」と先輩がさらに続けた。


「そのひとりがとても大切な人だとしたら? ほかの人を救ってもそう遠くないうちにダメになるなら? そうしたらどう?」


 先輩は、なにを言ってるのだろう。僕には先輩の言っている意味がよくわからない。


「ねえ、こうちゃん」


 先輩がこちらを向く。真剣な表情で。


「こうちゃん。私たちこのままでいいと思う?」


 私たち……それは僕と先輩のこと? それとも――。


 先輩はじっと僕を見つめている。淡い灰色の瞳で、僕をまっすぐに見ている。僕は思わず目を逸らした。先輩から逃げた。現実から文字通り目を逸らし、僕は心理テストの結果を先輩に尋ねる。気づいていないふうを装いながら。


 先輩は大きく息を吐き、気持ちを切り替える。すぐに真剣な表情はいつもの優しい笑みに変わった。


「テストの結果は……こうちゃんは『臆病な人』ってところかな」


 僕の本質をついている。よくできた心理テストだ。僕はあえて肩をひょいとすくめておどけてみせた。先輩はクスクスと笑った。


「そうでしょ、よくできた心理テストなの。こうちゃんは臆病で、とても優しい人」


 先輩は微笑んでいた。悲しそうに微笑んでいた。


「だからきっと選べない。でもね、それじゃダメなの。もうそんなに時間は残されていないのよ。わかるの。私、わかるの。だからね、こうちゃん」


 先輩の目から涙が一筋零れ落ちる。


「お願い、彼女を救ってあげて」

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