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 デルニシテは昔からクソガキでした。馬鹿なくせに賢しくて、人を煽りまくるくせにやたら強くて、わがままな割に父母の前ではおりこうさんで。


 とてもじゃないが長男とは思えません。


 でも長男です。第一子なので。


 ただ、さすがに母もマイペース過ぎる息子にかつての自分の影を見たのか人の間で暮らしていくに足る常識と処世術を教えました。


 誰相手にも礼儀正しく、常日頃から敬語を心掛け、仕事には真摯に取り組むこと。


 親の前ではいい子だったデルニシテはすぐに「ふさわしいふるまい」というやつを覚えましたがその性根は変わりません。心を許した人間にはすぐ本性を見抜かれます。


 そんなデルニシテにイドは最初から後を継がせようとは思っていなかったようで、と言うのもなんとなく「いずれ外へ行くだろう」と考えていたから。実際その予想は当たり、まだ幼い息子がある日突然「王様になりに行く」と言い出した時も止めたりせず、心配するに留めました。


 何より、デルニシテが自分を超える突然変異種であることを無意識に知っていたからです。


 デルニシテ、属性としては「二番目の母」に近い。無制限に強くなり続ける、未だ人の間では怪物と認定されるべき理解不能の希少種。しかもベースが強者として生まれたイドと変異種ではないものの特殊な精神性を持った「一番目の母」だったため、最初からチートじみたステータスを持つ。「二番目の母」はベースこそ少し優れているだけの人間だったので最初はただの少女でした。でもデルニシテはそんなかわいげを塗り潰して余りある暴力の化身なわけです。意味わからないですよね。


 さて、父と息子どちらが強いか結局本編中で明確に示されることはありません。ありませんが強いて言えば強いのは息子で勝つのは父です。


 デルニシテはその気になればこの世界の誰をも全てのステータスで上回りますがイドはあらゆる要素から一つ何かで上回ることができれば全ての相手に勝てます。この場合は親子という越えられない壁ですね。


 デルニシテは最強で、イドは捕食者。


 一生ぶつかることはありませんが、強さランキングは私が好きなのでこれからも多分更新します。


 ちなみに、デルニシテはもう一度負けます。今度は血縁者に。




 ガナルは上司や同僚から目をつけられたくないがために様々な策を講じては無難に無難に生きてきました。ほとんど死者重傷者を出さず、規律と士気のバランスを上手く保ち、後年には他より規律も要求される仕事も厳しいアルハレンナの麾下で無難に無難にろくに出世もせずに上手く生きてきたのです。ちょっと活躍した若造がいるからって小隊ごと皆殺しにするような老害がいるミザ王国軍で。


 デルニシテが来てからもその災厄っぷりを抑え込めたのはガナルのおかげです。何故かデルニシテはブレナンの言うことばかり聞きましたが。


 ちなみにもし上司がガナルでなければデルニシテの制御に失敗してもっと早くにデルニシテ自身の意志でクーデター起きてました。ガナルはミザ王国を数年に渡り災厄から守ってきた英雄だったわけです。


 さて、そんな小心者の英雄が何故みすみす殺されたのか。


 もちろん逃げられないほどきつく追い詰められたというのもありますが、そもそもそこまで世渡りをこなしてきた男の鼻が陰謀の臭いを知らないわけがない。


 自分たちが殺されることで発生するであろう致命的な災害について、彼は当然配慮しました。なんとか生き残ろうと思いました。他の隊員もガナルの意図を察して大人しくしていようと思っていました。


 でもダメでした。ブレナンはもう死んでいた。


 デルニシテ小隊の遠征中、今回ばかりは安全を保障できないとして(デルニシテは大丈夫だと言ったがガナルが押し切った)留守を任されたブレナンと僅かな下働きは一足先に強制連行され処刑されました。


 自分の判断で残していったことを間違いだとは思いませんでしたが、それでも長く戦場で共に命を張ってきた相棒の死を聞かされればそれまで媚びへつらっていた相手をぶん殴っても仕方ないというもの。


 やらかしてしまった彼にできることは一つ。デルニシテ到着までに一人でも多く隊員を生き残らせること。相手はわざわざ隊の垣根を超えて集められた対デルニシテ用の精鋭部隊。自分より強い相手とはそれこそ腐るほど訓練や戦場で戦ってきたのです、今更手の内を知っている同じ軍の人間なんぞ何するものぞ。


 あえなく全員討ち死にとなりましたが。


 でも彼は息絶える最後まで訴え続けました。


 デルニシテ・イーデガルドに叛意なし。無実である、と。


 それは紛れもない事実でしたが相手はそんなことどうだっていいのです、目障りなクソガキを始末できれば何人同胞を殺そうが構わないという外道の集団でしたから。


 そう、ガナルの弱さはそこです。


 デルニシテに、ついうっかり情を持ってしまった。


 生き残る方法は簡単でした、デルニシテを裏切ればよかった。


 ガナルの口先八町舌先三寸なら上手くやったでしょう。ブレナンを殺したことについては許せないものの、とにかく生き残るためならデルニシテを売るべきだった。


 そうすれば隊員は助かったし後から来たデルニシテを殺そうとして殺さないように優しく叩きのめされはするもののアルハレンナの擁護でその後もどうにかなった。


 でもダメだった。クソガキ一人に命を賭けてしまった。何より大事な命だったのに。


 でも仕方ない。全員がクソガキ一人のために命を賭けられる人間だったのだ。


 だって、かっこいい男は子供が向ける憧れの目を裏切らない。


 少なくとも彼らが目にした英雄イドは、いつだって強かった。


 きっと意図したことはなかったけれど。


 自分たちが憧れたあの男の息子に、そんな弱さを示せるものか。





 大陸北方の強国、サヴィラ連合は一人の裏切り者により二分された後新しく興った氏族の率いる新国によって滅ぼされます。


 裏切り者の名はドゥリアス・カーライル。


 誰より早くデルニシテの新国につき軍元帥の地位を得たもの。


 彼は仲間を失った後のデルニシテに影を見ました。


 豹変した態度はこちらの方が素なのだと納得できましたが、それだけでは説明できない不吉なものが彼の静謐の精神、その水底に澱のように溜まっているのに気付いたのは三人の奴隷より早かった。


 王城の掌握が終わってすぐに人をやってムーナスを捜索させ、彼女がふらふらと城へ来た時には迅速にデルニシテのそばへ付けた。


 離れる莫れ、と言葉が通じないながらに厳命し少し経つと彼女の側も何かを察したようで上手く気遣ったのかデルニシテの様子が変わり、次の奴隷をいつの間にか得ていた時は驚いたもののまた少しマシな顔になっていた。三人目を娶った時には明確に笑顔の頻度が増えていたしドゥリアスもほっと息を吐く。ここでやっと故郷へ目を向けることができた。お誂え向きにデルニシテのお守り役も見つかったし。


 すぐさま帰郷した彼は家督を継いでいた兄に迫ります。


「すまん兄。サヴィラは俺が滅ぼす」


「えぇ…?」


 兄、困惑。


「今のデルニシテはやがてもっと多くの血を流す。自ら望んで。そんな不吉な闇が奴の内にある。人の悪意に触れすぎたのだ。…いずれサヴィラも狙われよう。その前に俺がこの国を分かつ」


 兄はサヴィラ人には珍しく理知的で厭戦的でした。そんな賢い兄をドゥリアスは尊敬し勇猛な弟を兄は羨んでいた。ドゥリアスが成長するにつれ家督争いの色が濃くなっていくのを見てドゥリアスがさっさと戦へ出たことに今でも兄は感謝していたし申し訳なく思っていた。


 是非もない。


 こうして兄弟は協力の元、サヴィラの諸侯と兵卒を離反させました。


 少しでも流す血を減らすために。


 その策が成って数年も経たないうちに足場を固めたデルニシテの最初の標的としてサヴィラが選ばれ、サヴィラ側も国を半分近くも持って行ったデルニシテに対し徹底抗戦。


 まあ割とあっさりやられたんですが。


 とは言え。


 ドゥリアス・カーライル。


 裏切り者の汚名を受けながら国を守った男は、仕える男が王位を退いてもその娘に忠誠を捧げ続けた、忠臣にして護民の英雄として褐色の肌の民に語られ続けます。





 アポロニア・アルジェントはミザ王国の第三位貴族、つまり貴族の中で上から三番目に偉い貴族の家の次男坊でした。


 政争ばかりしてきた一族なので彼もいずれ適当な政略結婚の道具になるんだろうな、と思いながら自身も政争に生きていました。


 ええ、そのまま適当に嫁をもらうか婿入りするかしていれば貴族としてもう少しマシな人生を送っていたかもしれません。


 妹さえいなければ。


 容姿が良くて、器量が良くて、人当たりが良くて。とろそうに見えてなんでもすぐに覚えてしまう優秀な妹。


 父に褒められ無邪気な顔で笑う妹に彼は慄きました。


 長年の政争で人の心というやつを擦り減らした父を、あっさりと篭絡してみせた妹に。


 観察を続けるにつれ彼はその妹が恐ろしい生き物であることを理解します。


 まるで他人を信用しちゃいない。


 嘘をついていい場面では何の躊躇いなく嘘をついて人と人の間を渡り歩く合間に自分の隙間を作り、何をしているのかと思えばこちらを見つけ愛想を振りまきに来る。


 心の底から恐怖しました。幼女のくせにそれはあまりにも打算的。


 時折暇を見つけては身体の弱った母の下へ行き少しばかりの弱音を漏らし甘えるのも思わず悲鳴を上げそうになるくらいにうすら寒い。


 彼は決意しました。


 必ずやこの妹から我が家を解放してみせる、と。


 まあそこから先の彼の努力の全てをまるごと利用された上に彼女は家という檻の外へ飛び立っていくのですが。最初から道化だったわけです。


 彼女が消えた後、彼は怒りました。自分の全ての苦労を格上との縁談ぶち壊しという最悪の形で水泡に帰したことはあまりにも腹立たしい。すぐさまその後を独自に追いました。いえ、本当は縁談を止められなかったことを悔やんでいたのですが。


「だって絶対こういうことするだろお前!!!!」


 しました。


 今までもいくらか縁談はあったのですが彼は懸命にそれを阻止してきたのです。絶対この妹は何かしらの形で家に対して被害を発生させると確信していたから。


 彼女によって確信させられていたから。


 全て妹の思うままにされて兄は黙っていられない。と言っても、悔しいことながら妹の行方を知ったのはそれから十年以上経った後。


 あれを娶った男がいた。名前はイド。傭兵だ。


 息子も娘も何人かいた。名前までわかったのは一人、デルニシテ。


 ただ、そこまでわかった頃には彼も一人の貴族として多忙な身。


 かつて執着した妹がまるで普通の人間のようになんかとんでもないところで幸せそうにしていると聞いても、もう思うところはありませんでした。


 そのデルニシテが数年後、軍にいるという噂を聞くまでは。


 彼はすぐさま身辺整理と根回しを始めました。軍に自分の立場を築くための。


 デルニシテがクーデターを起こし誰もがパニックを起こす中彼は一人「家の存続のため」ともっともらしい言い訳をしてデルニシテに近付き、取り入ることに成功して。


 そしてまた利用される。


 アポロニア・アルジェント。


 普段は慇懃で有能な文官の中年は、今日も仕える甥に声を張り上げます。




 ムーナスは遠く海の向こうからやってきた女です。


 そこまでしかわかっていません。


 あとはいつまで経ってもこちらの言葉をろくに覚えないことと異様に卵料理が上手い、ということくらい。


 ついぞ自分から何者かを語ることはありませんでしたし、デルニシテや周りの者もスルーし続けました。


 彼女は最初の奴隷でしたが長くデルニシテと交わることはありませんでした。ドスケベ度で言えばぶっちぎりでしたがその天真爛漫さが毒気を抜いたらしい。


 ただ、三人目の奴隷マリーアルテがデルニシテの長子を産んだらよく面倒を見ましたし長年の厳しい鍛錬で孕むことができないと思われたアンヤが妊娠した時は一緒になって喜びアルハレンナが妊娠時特有のあれこれで苦しんでいれば謎の薬や卵料理で癒しました。卵料理に何か効果があったのかどうかはよくわかりません。


 デルニシテは多くの女を奴隷とし子を産ませましたが彼女が産んだ子供がデルニシテの末子になりました。


 謎めいた母から生まれた割に普通の子として育ち、彼女自身もにゃはにゃは言いながら普通にかわいがり、そして。


 謎に満ちている割にごく普通に、末永く幸せに暮らしたそうです。


 謎過ぎる。




 アンヤは子を産みながらも長くデルニシテに間諜として仕えました。


 それこそが至上の喜び。自分にしかできないことで頼られるのは嬉しいですよね。


 暗殺の道具として育てられながらも人並みの幸福を掴んだ彼女はその間諜という職業とは逆に、誰もが知るハッピーエンドの代名詞として歴史に名を残します。


 シンプルイズベスト。


 シンプル過ぎるのも困りものですね。




 マリーアルテはとてもしっかり者。なかなか不幸な少女時代でしたがタフに生き延び、女奴隷にされた後もまあまあ適応して生きていました。


 デルニシテの最初の子も彼女との子供。彼女は真面目だったので奴隷になるにあたって色々と勉強をしました。人に聞くのは恥ずかしかったので、主に本で。


 どうやら彼は妻になれ、というのと同じ意味で奴隷になれ、と言うのだとわかった後は妻としてのあれこれを学び、それが上手くいったのかどうかはよくわかりませんが見事懐妊。


 その頃にはデルニシテの無垢さや向けられる愛情に絆され彼のことを愛していたので妊娠を喜ぶと同時に彼女の内にある疑問が浮かびました。


 この子、次の王になるのでは…?


 え、いいの?私は他国の姫でその子供が王になるのは…政治的に…?


「いいよ。やりたいって言えば」


 主人の返事はあっさりしたものでした。実際後年になって子供たちに王様やりたい人ー、と挙手を求め一人だけ手を挙げた娘にぽんと譲ってしまう男の言うことはいちち軽い。


 またある時。クソ真面目なマリーは他の女奴隷がそれぞれ役割を持っていることに気付き自分も何かせねばと思い立ちます。


「え、いいよマリーは。俺と一緒にいてくれればそれでいい」


「いえ、何かします。あなたのために」


 これはデルニシテなりにキラーワードのつもりだったのですが、あっさり流されて若干傷つきました。


 しかしこのかわいい美人もなかなか引きそうにない。


 仕方なく彼は仕事を与えることにしました。


「…じゃあ、商売やって。国が持ってる備蓄の管理と市場に出入りする食料の価格調整」


「わかりました!」


「…え?やるの?」


 やりました。


 意気揚々と出かけていき資料をあさり商人と話し算盤を弾き倉庫にこもり、あっという間に備蓄と王都の市場を掌中に収めてしまった。


「「えぇ…」」


 デルニシテは困惑しました。ついでにアポロニアも困惑しました。


 彼女はあまりに有能だった。


「備蓄は全体で二割増やせました。政変があった後だと言うのに、たくましい市場は羨ましいです。我が国も…って、今の私はここが我が国でしたね。…貴方のそばが、今の私の居場所です」


 なんちゃって、と普段は絶対に見せないおちゃめな照れ笑いに見惚れるのも程々にデルニシテは乾いた笑いで応じました。


 俺の国にするのはいいけど…取られるのでは?






 以前の約半分になった新ミザ王国はサヴィラの次に敗北しました。


 この大戦争時代にありながらドでかい観光収入を持つ石壁の街を擁しましたが、それでも。


 精鋭騎兵も重装歩兵も攻城兵器も間諜、暗殺者もたくさん抱えてやる気満々でしたが、それでも。


 今度こそ正統な王を担ぎ上げ士気は最高、今こそ捲土重来を期す。なんて意気込んでいましたがそれでも。


 デルニシテの暴力に屈した。


 でも、国は残った。属国として。


 デルニシテはしばしば勝った国を滅ぼさず留め置くことがありました。ミザ王国はその最初の一つ。次がマリーアルテの祖国ですね。約束通り抵抗を続けていたマリーの弟を助けてついでに隠れていた残りの家族も見つけて、表向きは永世同盟国として属国にしました。


 敗戦後、デルニシテの座す旧ミザ王都にてミザ王は妻子と共にデルニシテとの会談に臨みました。


「久しいな、デルニシテ」


「うん。そっちは元気だった?」


「うむ。これを機に玉座を新調したがなかなか座り心地が良くなった」


「そっか。じゃ、食事にしよう。話はそこで」


「ああ」


 ミザ王とその妻子は、デルニシテのクーデターの真相を知る者でした。


 同時にその痛ましい真実に深く同情し、やがて家族ぐるみの友誼を結んだ仲でもありました。後に王子は己の子の名をデルニシテに求めます。


「自分の子供なんだから自分で決めた方が良くない?」


 王位を息子に譲ったミザ王が本も出しました。自分たちとデルニシテの関係、そしてクーデターの真相について。


 最大級の不祥事の告白を、出版を止めるものはいませんでした。止められるわけがない。生涯ミザ王はデルニシテへの贖罪のため反デルニシテの協力者を洗い続けたほどの高潔な人だったから。


 会談は異様に美味い卵料理を腹いっぱい食べ、一般家庭みてぇな和やかさで最近どんな本を読んだだの王様ってかったりーとかどうでもいい話をしてつつがなく終わりました。


 帰ってから政治の話をしてないことを思い出しましたが、まあ大した話はなかったので適当に書面で済ませます。


 ただ、おかしなことにデルニシテはミザ王宛の書状全てで相手のことを陛下、と記しています。


 このことから「デルニシテは最初、そのままミザ王を仰ぎ続けるつもりだったのでは?」という考察が後の歴史家たちによってなされますがまあ過ぎたことです。


 一つ言えるとすれば、デルニシテは自分を理解してくれたミザ王一家をまるで己の家族のように大切に扱っていたということくらいでしょうか。







 玉座の間で凌辱されたおそらく歴史上唯一の軍将アルハレンナはそのまま勝者デルニシテ・イーデガルドの女奴隷となりました。


 そのことに本人も異存はなく、まあ負けたしな、仕方ないなみたいな顔をしていましたが胸の内ではこれから始まるしゅきしゅきご主人様とイくエロエロ女奴隷ライフに心ぴょんぴょんしていました。


 そう、彼女はドスケベでした。


 奴隷堕ちした際に一緒に脳みそ落としたのかよとでも言いたくなる情けない末路ではありますが、これは彼女なりにもう一つ考えがあってのことでもあったのです。


 彼女は一人でいる時、もっぱら己の手を見つめながら考え事をしていました。


「何故、英雄は生まれる?」


「最初の違和感は二十年前。この大戦争時代とも言うべき世の中で誰もが驚愕し称賛した最初の英雄が生まれた。魔女狩りの戦鬼、傭兵イド」


「私が生まれる前のことではあるが、既にその時から始まっていたのだとは思う」


「いや、あるいはもっと前から。さすがに調べきれないが、きっといたはずだ」


「抜きんでて強い人間が」


「戦場に」


「イドも。私も。デルニシテも。他に何人も知っている。戦場で常人を遥かに上回る活躍をする強者が、まるでこの戦乱の時代に求められたが如く現れ名を残す」


「何故だ?」


いや、増えている。確実に。何故?」


「何故そこまで強い人間が現れる?荒れた時代であれど、名のない民衆として生きる人間の方が明らかに多いのに」


「わからない。だが、一つ試すことはできる」


「私が産む子は果たしていかなる運命を持ち生まれて来るのか」


「強い人間が増えているということはその血を継ぐものが増えるということだ。私自身の血を継ぐ子が強き者として生まれればそれは……」


「…………」






 アルハレンナ・シームーン。


 最もデルニシテの寵愛を受けた女奴隷、または妃。


 そんな彼女は。


「さあデルニシテ!子供を作ろう!お前は大きい胸が好きだろう?私の胸を執拗にいじめてくれたものなぁ!」


「……」


「にゃは?でるに、おっぱい?」


「好きなだけ抱くといい、私が頑丈なのは知っているだろう?時間を忘れて貪ってくれたものなぁ!」


「……」


「お、お、御屋形様ぁ……さすがにこんな明るいうちから三日三晩は恥ずかしゅうございます……」


「私のように優れた女を孕ませたいのだろう?美しい女を己のものとして犯すのはさぞ満たされることだろうなぁ!」


「どうしたんです、貴方?最近随分甘えてくれるんですね、ふふ。嬉しいです。かわいい赤ちゃん産みますから、もっとかわいがってくださいね」





「…………」


「…………!?」


 彼女は、デルニシテに避けられていました。


「なんでー!?」


 マウント取り過ぎなんですよね。


 元々の態度がデカいせいでトラウマを常に刺激してくる女をデルニシテはすっかり苦手になっていました。


 まあ、子供ってしつこい人嫌いですからね……。


 最初はそんなこともありましたがなんとか仲直りし、子供も何人か生まれました。


 二人の第一子は女の子。名はフラジイル。


 後にデルニシテの王国を継ぎ、さらに発展させ史上初の皇帝となる女。


 アルハレンナが考えていた通りの、強き者です。

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