第184話 一行怪談184

「まもなく終点です」というアナウンスから三時間経ったが、バスは終点の停留所を通り過ぎ、山の奥深くを進んでいき、現在は霊園の中を静かに走行している。


 この路線のバスに乗ると、絶対に誰も押していないのに、降車のブザーが鳴る停留所がある。


 ハッと目を覚ました時、バスは停留所を離れるところだったので慌てて「降ります」と運転手に伝えたところ、「お客様、私に感謝しますよ」と言いながら運転手はバスを発進させたため、さすがに文句を言おうとしたその時、停留所に車が突っ込んで大破したのがミラー越しに見えた。


 再びバスに乗ってきたのは、私と同じ顔、同じ髪型、同じ服装、同じ持ち物を持った人物であり、とうとう車内は私と同じ格好をした人々で埋まってしまった。


 バスの車内で泣きじゃくる赤ん坊に老人が文句を言うが、「すみません、この子はこうしないと泣き止まないので」と頭を下げた赤ん坊の母親が、鞄から取り出した包丁で老人の喉を切り裂いた瞬間、赤ん坊の笑い声が車内にこだました。


「お客様、忘れ物ですよ」とバスを降りる際に運転手に渡されたのは、家に置き忘れた仕事で使う書類の束。


 満員のバスに乗った際は、時々、乗客たちに押し潰されてペラペラの紙のように薄くなった乗客がバスを降りていくところを見ることができる。


『バスの窓から外の景色を眺めていると、コンコンというノックの音が聞こえることがあるが、「私はまだ降りません」と答えないと、バスの窓にいくつもの手形が浮かび上がるので、必ず返事をしなくてはならない』というのが、この地域でのルールだ。


 夜、乗ったバスの運転手の顔がのっぺらぼうだということに気づいた時は、急いでバスから飛び降りなければならない。


 午後四時二十八分のバスに乗ってくる白いワンピースの少女は、かつて自分を轢き殺したバスの運転手を今でも探し続けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る