女神ちゃんはキモオタにはうんざりなの!

擬音の人

第1話 愚者 山田太郎

私は女神ララ。今年天界学校を卒業して、晴れて現役女神になることが出来た。

天界資格である女神一級の取得には苦労しましたが、それはもう過去の話。今の私は一級女神ララ。天界、異世界、天国、地獄、エトセトラ。彷徨う魂をなんとでもできる高位職者だ。

女神と言ってもその種類は多く、女神の中での最高位とされる大奥から最低位の五級女神まで多い。私のような一級女神は魂などに対しては絶対的な権限があるが、天界や天国、地獄の担当者とは対等な立場に過ぎない。な立場と聞くとそこまででも無さそうだと思われがちだが、超格差社会の「あの世」において、一級女神以上がようやく他女神や邪神、鬼などと対等な位に就けるのだ。それ以下の者など犬のような扱いで、女神以前にまっとうな生物だと思われない。私はその生まれの良さからそんな扱いを経験したことは無いが、天界学校の中には毎日死んだ目をしている者も多かったと記憶している。


審判の部屋。ここが女神の仕事場である。青を基調とした部屋で、その巨大さ故に壁を見た者はいないとまで言われる広大な部屋だ。

ドアを開け中に入ると、床から一メートルほど高い位置に、私の座る椅子が輝いている。青系の天界石を基調とし、細部に金装飾のある豪華な造りだ。私はゆっくりと神聖な椅子に着く。前には私の座る椅子に比べてかなり貧相な椅子が置いてある。魂は基本あそこに座らせるのだ。


「さて・・・と」

女神は基本的に一日七件まで魂の所存を決める。現世で何か大きな災害や事故があると最大七十七件までになるって先輩女神が死んだ目で言っていたなぁ。

さて、記念すべき最初の魂を呼び出そう。

「彷徨う魂よ。私、女神ララが絶対神に代わりあなたを導こう。さあ、私を見るのです。そして感じるのです。さあ、審判を始めましょう」

そう声を発すると、目の前の椅子から青い光が放射状に現れ、一瞬、瞬いたのちに、一人の男が座っていた。

「うおっ!?なんだここ!」

冴えない相貌の男。上下ジャージで、デブ眼鏡。正直言って見栄えが良いとはお世辞にも言えないだろう。

「こんにちは」

「うっおなんだこの美少女」

男は驚きの表情で私を見つめる。

「私は女神ララ。あなたのような彷徨う魂を導く者です」

「わえーすっごい」

そんな彼の手元に一枚の紙とペンを転送させる。

「おうおおっと、これは?」

男は書類に困惑しているようだ。

「こちらにあなたの名前、性別、生年月日、出身など書類を見ながらお書きください」

「なんか役所みてぇだな」

そう言って、男は書類を書き始める。

「なあ?生年月日って西暦で描けばいい?それとも昭和って書けばいい?」

「西暦でお願いします」

「うっす。そういうところは役所っぽくねえな!」

と言って、男は一人爆笑した。

・・・こいつほんとに昭和生まれか?高校生ではなく?


「うっしかけたぞー」

「どうも」

と、男の持つ書類を私の方に転送させる。

「・・・?山田太郎って例ですよ?」

「ちっがうわ!やっぱあんた役所の人間みたいだな!ワイは山田太郎って言う名前なんだよ!マッマにそうつけてもらったの!」

「え!あ、その、失礼しました」

「おう」

男は不機嫌そうにうなずく。

気を取り直して、書類に不備がないか確認する。

「しかし、山田さん?」

「ん?」

「職業欄が空白のようですが・・・?」

「そらあ無職だからね」

だめだこのおっさん。

「そういう時は無職とお書きください」

「ええ~恥ずかしいじゃん」

じゃあ働けよ。という思いをひっそりと胸にしまいこみ、書類チェックに戻る。

「なあねーちゃんよお、喉乾いたんだけどなんかねえかな?」

知らねーよ。

「すぐに終わりますからもう少々お待ちを」

「ああそうかい」

山田はそういうと椅子にふんぞり返り、足を組んだ。この私の前で。

「あのですね!私は女神ですよ?女神である私の前で足を組むとは何たる無礼か」

すると山田はため息をついて、

「そういうのだよねーちゃんよぉ。堅い女はモテねぇよぉ?もっとさ、ラフで男に媚びるようにしなきゃさあ」

彼のあまりの言いように、私の我慢の限界を超えた。

「異世界への門よ!開きなさい!」

と私が言うと、山田の頭の上に大きな青色の魔法陣が現れた。

「お、おい、どういうことだよ!」

「あなたが悪いのです」

「おいお前、ふざけ・・・」

山田が物を言い切る前に、彼は異世界へ飛んで行った。彼の転生先はアルベルト王国である。魔王軍の攻撃に耐えきれず敗けた国家で、今では魔王の傀儡国家と化している。しかも魔王軍は新たに将軍を構え、その規模は三百万とも言われている。あのような屑男は、貧民街でヤクにでも溺れているがいいわ。

「さて、と」

私は一級女神。これぐらいじゃあへこたれません。運悪く最初の魂が最低だっただけで、次は大丈夫。きっと良い審判が出せるでしょう。


「さあ、次の魂を呼び出しますか!」

自分に喝を入れ、深呼吸。そして、言う。


「彷徨う魂よ。私、女神ララが絶対神に代わりあなたを導こう。さあ、私を見るのです。そして感じるのです。さあ、審判を始めましょう」

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