第27話 ノーセルフコントロール⑤ー遊びは終わりー

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 爆発音を聞いて噴水のある区画へ駆けつけたスティーブン・ウィンターは、修羅場と化している現場に息を呑んだ。

 公園の至るところに攻撃の跡があり、自分が乗ってきた車があった場所から黒煙が上がっていた。そんな中、フレア・サザーランドと全身鎧が戦っていた。

 お互いに間合いと取りつつ、かと思えば示し合わせたように近づき拳を交わした。鎧の方は隙さえあればサブマシンガンで遠距離攻撃を仕掛けたが、高速移動するフレアに命中することはなかった。

 二人の近くには、派手な柄のシャツを着た三人の男がいた。その内の二人は尻もちをついたまま微動だにしない一人の両腕を持ち、引きずりながら公園を出ようとしていた。

「どうして私がいない時に限って事件が起こるんだ」

 スティーブは自虐気味に呟いた。

 そしてジェフリー・ワースの所在を確認しようとした時、背後から彼の声が聞こえた。

「スティーブ、大変だよ」

 ジェフリーは困った顔をしていた。

「どうも、初めまして」

 その横に見覚えのない顔があった。しかし身につける白いマントで彼が何者か把握できた。

「クルースニクか……」

「正解! 俺はオファニエル。よろしくね」

「何をしにここへ来た?」

「何をしにって……。俺らがクルースニクってわかるなら、俺らの活動も知ってるでしょ?」

「私たちは現在、【同族殺しの魔女】に命を狙われている身。放っておけば死ぬかもしれない我々をわざわざ『封印』しに来るとは考えにくい」

 スティーブの言葉に、嬉しそうにするオファニエル。

「うん、君は勘が良いね。あの脳筋が長い間、【同族殺しの魔女】から逃げ延びてこれたのは君のお陰かもね、スティーブン・ウィンター」

「目的はなんだ?」

「最終的には『封印』なんだけどね。ここへは挨拶するつもりで来たんだけど、ゼロエル……今戦っている彼のやる気に火がついちゃってね。手がつけられなくなった」

 オファニルは自嘲気味にそう言った。

「私としては早くお引き取り願いたいところなんだけど」

 スティーブは毅然とした態度を取った。オファニエルは肩を竦めながら困った顔をしたが、それが上部うわべだけだと態度からすぐにわかった。

 二人は睨み合うように互いの挙動に注意を払った。

 そんな中、こちらに近づいてくる慌ただしい足音が聞こえた。二人は横目で音の方向を警戒すると女性の姿が目に止まった。

「違う……」

 二人から少し距離のある場所に立ち止まった金色の髪と瞳を持った美麗な女性は、肩で息をしながらフレアとゼロエルの戦いを見てそう呟いた。

「待ってください! 一人では危険です!」と女性の後ろから、学生服のような黒服を着た男の声が聞こえた。


   □


 黒服の男の声に反応したのはゼロエルだった。

(あれは確か……)

 声の方向へ目をやると意外な人物の顔を見つけ、戦う手をめた。

「どうした、もう疲れたのか?」

 フレアは意気揚々と挑発する。

 だがゼロエルには届いていなかった。フレアに対する興味が削がれたのだ。

「用事ができた」

「はあ? 喧嘩ふっかけといて逃げるのか」

 ゼロエルはフレアの言葉を無視して自分のマントを拾うとオファニエルを呼んで公園の出口へ向かっていった。

「おっと、もう終わったみたいだね」とオファニエルは呟く。

「君の願いは叶ったようだ。それでは失礼するよ」

 隣にいるスティーブにそう言うとゼロエルのもとへ向かった。


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「一体どういうことだ! 自分勝手にもほどがあるぜ」

 フレアは苛立たしそうにクルースニクの二人組を見送った。

「そう言いつつ後を追わないってことは何だかんだ冷静なんだね」

「スティーブ……。戻ってたのか」

 スティーブの言葉に、きまりが悪そうなフレア。

「まあ、弱いやつと戦ってもつまらないからな」

「でも良かったよ。戦いが終わって」とジェフリーが安堵の表情を浮かべた。

「それにしても何だったんだ? 急に帰りやがって」

「多分、原因は彼女らにあると思うよ」

 スティーブがフレアの問いに答えた。

「ん?」

 戦いに夢中になっていたフレアはここで新たな闖入者の存在に気がついた。

「誰だ?」

 フレアが金髪の女性を観察していると、その視線に気づいた女性がこちらへ近づいてきた。その後ろを黒服の男がついてくる。

「この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 女性は開口一番に謝罪した。

 女性が誰なのか心当たりがないフレアは困惑した。隣にいるスティーブとジェフリーも同様だった。

「いやあ人違いじゃないか?」とフレアは返答した。

「あなたはフレア・サザーランドさんですよね?」

「そうだけど」

「それなら人違いではありません」

 女性はきっぱりと言い切った。

「申し遅れました。私はシェリル・レファーニュと申します。あなたたちの命を狙っている『者』の妹です」

「妹!?」

 予想だにしなかった人物の登場にフレアが驚きの声を上げた。

「ちょっと待ってください。たしかレファーニュ家は全員、【同族殺しの魔女】––––エルプーザ・レファーニュに殺されたと聞いていましたが……」

 スティーブは自身の記憶に残っていた過去の情報を口にした。

「仰る通り父と母は姉のエルプーザによって殺されました。しかし私と弟は何とか生き延びることができたのです。ただ……」

 シェリルは言い淀んだ。その先を口にすべきか悩んでいるようだった。

「ただ、吸血鬼としての生を終えることにはなってしまいました」

「どういうことだ?」

 フレアが訊ねた。

 シェリルはゆっくりと言葉をつむいだ。

「あの時の私は運が良かったのです。クドラクさんが近くにいなければ、私と弟も家族と一緒に死んでいた……。瀕死の私たちには選択肢がなかったのです」

 そしてシェリルは過去に起きた自身の出来事を話し始めた。

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