第25話 ノーセルフコントロール③ー強者の実力ー
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「『AGベリアル』が内側から拘束する理由はな、お前たちの『再生』能力がザルだからだ」
ゼロエルは横たわるフレアの周囲を回りながら得意げに話を始めた。
「クルースニクは古くから吸血鬼の研究を行なっている。そして『再生』能力の欠点を発見した。それは体に異物が残っているとその箇所が再生されないということだ。俺たちクルースニクはそこに目を付けた。殺せないお前らを倒すには『再生』を阻む障害物を用意し、機能停止させれば良いのだと。現にお前の体についた傷口はワイヤーが切り離された瞬間に閉じたが、
フレアが横目で見上げると、急に立ち止まったゼロエルに何度も顔を踏みつけられた。
「ああ、ボコボコにしてもすぐ元に戻りやがる。不快だ」
ゼロエルはわざわざヘルメットの前面部を開き顔を出すと、フレアの顔面に唾を吐いた。
「ある時代には生首を切り落とした体にピッタリ
フレアが急に声を出して笑った。
「何が面白い!?」
「俺は別に人間を馬鹿にしているつもりも見下しているつもりもねえんだが、お前だけは違うな。お前の話を聞いていて、お前と言う人間がよくわかった。だから俺はお前に対してははっきりと言える。お前は馬鹿だ」
「はあ?」
「自分の手の内を晒して得意げになってる野郎を馬鹿以外になんて言えば良いんだ?」
「この話をしたのはお前がすでに終わっているからだ」
この時、ゼロエルはわざとフレアにとどめを刺していなかった。自分たちの優位性を示すための時間を作るためだ。
順当にいけば捕獲した吸血鬼の脳と心臓に『AGベリアル』の
フレアはそれに気づいていた。
「だからお前は馬鹿なんだ。全くもってナンセンス!」
「強がりを抜かすな!」
ゼロエルが叫声を上げるのと同時に、フレアは自身に巻き付いたワイヤーを力づくで引きちぎり、立ち上がった。
「何!?」
ゼロエルはその光景に動揺したがすぐに立ち直った。
「お前らの馬鹿力なんて想定済みだ!」
フレアの脳と心臓にワイヤー刃の先端を打ち込もうと『ユーアンシステム』に指示を出す。しかしそれよりも早くフレアは体内に取り残された四つの
フレアは
「どういうことだ……」
ゼロエルは唖然とした。
「並の吸血鬼になら有効なんだろうが、俺クラスになるとこんなものはオモチャ同然」
そして
「一つ教えてやる。俺は自分の血液を手足のように操ることができる。だから手を使わずに血液操作だけで体内の異物を把握し、外に押し出せるってわけよ。すごいだろ?」
フレアは得意げな表情を見せる。
「なぜお前を馬鹿にした俺がネタバラシをするかって? それはな、俺の実力は隠し事をしてもしなくても変わらないからだ!」
□
フレアは瞬時にゼロエルの懐に入り、拳を二発入れた。
銃弾を受けたような重たい打撃は、装甲で守られているとはいえ、ゼロエルの内臓を揺さぶった。ゼロエルはヘルメットの前面部を閉じ臨戦態勢に入った。
「肉弾戦と行こうぜ」
それからフレアはゼロエルを殴り続けた。肩幅に足を開き、腰を落として下半身を安定させ、胸部や腹部を中心に拳を打ち放った。
ゼロエルは防戦一方となった。胸の前で腕を交差し耐えるしかなかった。
しかしそれも長くは続かなかった。
致命傷にはならないまでも確実にスーツは消耗し、遂にはヘルメット内部でスーツの耐久力の限界を警告するアラートが鳴り出した。
「クソッ、クソッ」
ゼロエルは悔しさに奥歯を強く噛み締めた。
フレアに手加減され、遊ばれているのを理解していたからだ。〈
反撃するため距離を取ろうにも、すぐに追いつかれ殴られる。『AGベリアル』のストックはなく、『AGソード』の格納部は打撃により故障し、腰にある『AGジャッジメント』を手にしようにもその隙を作れない。隙を窺う時間すらもなかった。
窮地に立たされていると認めざるをない状況に苛立ちが頂点に達した。
その時だった。
「おい、てめえら!」
男の怒声が公園内に響いた。
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