第24話 ノーセルフコントロール②ー対吸血鬼兵器ー
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「さて、これからが本番だ!」
ゼロエルは攻撃を続けたまま、右肩にあるボタンを外してマントを脱ぎ捨てた。マントの下は鎧のような黒いパワードスーツだった。
体にフィットした
長い歴史を持つクルースニクが初めて吸血鬼と交戦した時、身に付けていたのが甲冑であった。それから幾年続く戦い、数々の犠牲の末に獲得した知識と経験、そしてテクノロジーを駆使し、進化し続けた彼らの力。それが対吸血鬼兵器––––『パニッシュメント・スーツ』である。
特殊な高強度カーボンやケブラーなどを組み合わせた複合素材をベースに、吸血鬼に効果的とされる銀を繊維状にして織り込んだスーツは軽量にも関わらず強度があり、耐熱性にも優れていた。
背中にあるバックパックには小型スラスターが二基、両肘や両腿などの複数箇所に姿勢制御バーニアが搭載され、腰には対吸血鬼兵器の一つである銀製の弾丸が装填されたサブマシンガン『AGジャッジメント』が装備されている。先ほどからフレアを攻撃しているワイヤーも対吸血鬼兵器であり『AGベリアル』という名が付いている。そしてスーツの胸部には彼らのシンボルマークであるメタトロンキューブが刻印されている。
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フレアは掌に血液を集中させるとその温度を急上昇させた。刹那、炎が上がり掌に纏わりつく。回避行動を取る中で目前を通過する瞬間を狙い、ワイヤーを握り締めるとその炎で焼き切った。
ゼロエルは不服そうに
「なんだ? お前。その格好は」
ワイヤーに追いかけられ視界に入っていなかったゼロエルの様変わりした姿を見てフレアは言った。
「この前、そんな格好をしたやつが活躍する映画を観たな。お前が着てる物よりもゴツくてヘルメットが付いてる格好良いやつだったが」
フレアは嘲笑した。
「そう焦るな」
ゼロエルはバックパックの上部から、複雑に折り込まれたクローズヘルメットを自動操作で取り出し、頭部に装着した。
本体と同じ黒色をしたヘルメットには先端が先細りした
これで全身が『パニッシュメント・スーツ』という名の鎧で守られた状態となった。
フレアはその姿に首を傾げた。
「格好は似てるが俺好みの燃えるような色じゃねえなあ」
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「軽口を叩けるのも今のうちだ!」
ゼロエルはスラスターと姿勢制御バーニアを点火させると低空飛行で高速移動し、フレアに向かっていった。それから左上腕内部に格納された『AGソード』を取り出した。
一直線に飛んでくるゼロエルに対して、フレアは両手を炎で覆って応戦する体勢に入った。そしてゼロエルが攻撃有効射程距離に入ったのを見計らい、右の拳を撃ち放った。
しかしその攻撃を予測していたゼロエルは拳が飛んでくる直前でバーニアを逆噴射し、急停止するとバックパックに搭載された四本の『AGベリアル』を飛ばした。
想定外の攻撃にフレアは回避できなかった。胸部に二本、両腿に一本ずつ、
ゼロエルは再度スラスターを噴射しフレアの背後から距離を取った位置に着地した。
「単調な攻撃だ。お前が俺たちを馬鹿にしてるってことがよーくわかる。本当に胸糞悪い存在だ。吸血鬼ってやつは」
「不意打ちしたやつがよく言うぜ。卑怯者が使う手だぞ」
「そんなの知ったことか」
「いちいち人を苛つかせる野郎だな」
「誰が『人』だ! 化物だと自覚しろ!」
「言葉の綾だろうが。こまかい野郎だぜ、まったく」
フレアはゼロエルの言葉に苛立ちながら、体に垂れ下がるワイヤーにも苛立っていた。一刻も早く取り除こうとワイヤーに手をかけようとした瞬間、
その直後、フレアの全身に激痛が走った。
体の中で何かが
あまりの痛みに体を丸め、その場に
「良いね。その痛みに悶える表情。でも悪いのはお前だ。【同族殺しの魔女】に対する警戒心を俺たちにも持てば、こうはならずに済んだだろうに」
ヘルメットの中で恍惚とした表情を浮かべるゼロエル。
その様子を見ていたジェフリーがフレアを助けようとゼロエルに襲いかかろうとした。しかしオファニエルが立ちはだかり行く手を阻んだ。
「デカイの。お前の相手は後でしてやる」
ゼロエルはフレアを見下したまま、言葉だけを送った。
「今、お前の体の中で何が起きているか教えてやろう。その方が想像しやすいだろう?」
ゼロエルは口の端を歪めて凶暴な笑みを作った。
「お前の体に残った
フレアの体内を蠢く無数のワイヤーの跡が皮膚上に隆起し、全身に広がっていくのが見て取れた。数秒もかからず全身に達したワイヤーは、鋭利な先端部を体外へ放出するとフレアの体に巻きついた。
「へー。これは実戦でも有効そうな武器だな」
ジェフリーを警戒しながら、常に戦場を注目していたオファニエルが感嘆の声を上げた。
(『パニッシュメント・スーツ』の機動操作や『AGベリアル』の捕獲機能のすべては『ユーアンシステム』のサポートによってその真価が発揮されている。今までのシステムとは違い、音声操作を主にしてるからレスポンスも向上している。中々のシステムじゃないか)
システムの使い勝手を確認し、自然と笑みを溢すオファニエルはそのまま分析を続けた。
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