お嬢様のワガママ。~・ミエナイ鎖に繋がれて・~

toto-トゥトゥ-

途方に暮れて・・・

バイトばかりしていた。

両親は幼い頃に亡くなって、親戚の家にお世話になっていた時期もあった。

必要最低限のお金を使ったりしないから、お金が貯まった時には親戚の家を出て、一人暮らしを始めた。

バイトと家の往復、休みの日は家でゴロゴロしたり友達に誘われてご飯に行くぐらいだった。

これから先も、こんな生活を送って死んでいくんだろうか・・・。

そんな事を考えながらも、今日もバイト先へ向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これからどうしよう・・・。」


トボトボと道を歩く。

いつも通りにバイト先に着いたと思ったら、店長が従業員を集めて一言、「ここ立退きになりました」だって・・・。

まぁそれぐらいだったらまだいい・・・問題なのがそれが今日決まった事だ。

事前に何も連絡が無く、いきなりそんな事を言われても困ったもんだ。

社員さんは他の系列店や本部に移動だが、俺を含めたバイトやらの従業員は職を失った。

そりゃ重い足取りにもなりますよ・・・。


「そもそも即日に立退き決めて店潰す奴がいるのが信じられん。」


グチグチと文句を垂れる。

長らくお世話になった職場を失ったんだ、文句ぐらい許してくれ。

良い職場だったんだけどな~・・・。


「過ぎた事は仕方ない。それより早く次の働き口探さないと、家賃とか光熱費とか諸々払えないとヤバいからな・・・。」


蓄えはまだあるにしろ、悠長なことは言ってられない。

いつ何が起きるか分からないからな。

気を取り直して次はどうするか考えながら歩いていると、すぐ横に張り紙があるのに気づいた。


「お手伝い募集?手取りは・・・高っ!?」


募集の張り紙に記載されていたお給料の額がありえないぐらい高い。

さっきのバイト先の何か月分もある。

張り紙から目を離して、その家を見る。


「塀が大きすぎるだろ・・・まだ向こう側まで続いてるぞ。」


見て分かるように、相当裕福な家らしい。

ここのお手伝いさんを募集しているって事か。


「バイト先から近い所にこんな大きな家があったのか・・・。」


毎日家をバイト先との行き来で気づかなかった。

そもそもこの道普段通らないし・・・。

再び張り紙を見る。

このお給料・・・。


「・・・・・・いや、やめとこう。」


確かに喉から手が出るほど美味しい金額。

しかしだ、こんなに貰えるって事は、・・・何か危ない事やらされるんじゃ・・・。

それにこんなに大きな家に住んでるって事は・・・・・・危ない・・・。


「俺は真面目にコツコツと稼ぐに限るな。」


そう思い立ってその場を離れようとした時、


「あの!」


後ろから声を掛けられた。

振り返って見ると、メイドさんが二人、買い物袋を下げて立っていた。

メイドさんなんて初めて見たから一瞬固まってしまったが、また声を掛けられて我に返る。


「もしかして、お手伝いさん募集の張り紙を見て・・・。」

「えっ?あぁいやぁ、見てただけで・・・」

「本当ですか!?良かった~、中々誰も来てくれないからどうしようかって思ってたんです!」


誰も来てくれない?

やっぱり何か危ない事を・・・。

一刻も早く、この場から離れる事を決意した。


「いや違うんです!ただ見てただけで・・・それじゃあこれで・・・」


それだけ言って速足に去ろうとしたら・・・、


「まぁまぁまぁ!!そんな事言わずにお話だけでも!!」

「そうですよ!!ここで会ったのも何かの縁!!どうぞ中へ!!」


メイドさん二人はそう言って、俺の両脇を抱え込むと、そのままドデカい門をくぐり、俺を中に連れ込んだ・・・。

これ、拉致じゃない・・・?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


広い家の中を先ほどのメイドさん二人に案内されながら移動している。

外からでも分かってた事だが、やっぱり大きい家だ。

それに、他のメイドさんにも出会う。

場違い感が半端ないんだけど・・・。


「あの、何処に向かってるんですか?」

「奥様の所ですよ。」

「奥様?」

「この家の持ち主で、大企業の社長を務めていらっしゃるんです。聞いたことありませんか?神之超(かみのごえ)って。」


神之越・・・聞いたことがある。

世界にも名を轟かせる、大企業だ。

噂だけど、社長の一声で何でも実現できるとか何とか・・・。

えっ?ここ・・・その社長の家なの?

顔から血の気が引いていく。

俺みたいなただのフリーターが、こんな所にいちゃマズいだろ。


「とてもラッキーですよ。奥様はいつもお仕事で滅多に家には帰らないんです。今日は本当に偶々少しの時間だけ家に戻られているんです。」


いやアンラッキーなんだけど・・・。


「あの、すみません・・・やっぱり俺」

「さぁ着きましたよ。」


やっぱり帰る事を伝えようとしたら、一つのドアの前で止まった。

俺の心臓も止まった・・・・・・。

終わった・・・。

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