第9話 無双

「蓮華...」


 少年が声を発すたび、トロールの傷が増える。

能力差がありすぎるせいか深い傷とまではいかないが、着実に弱っていく。

 無論、トロールもただ喰らっているだけではない、反撃をしようとするが全て受け止められ、倍で返される。

完全に弄ばれていた。

だが、遊ぶ側の少年は無表情で、感情などは何も感じられない。

 その表情を見てトロールは死を覚悟した。だが攻撃が突如止む。

不思議そうに少年の方を見ると彼は死体の方に近づいていき、傍に落ちている剣を拾った。

そして剣2本を構えて、一瞬で距離を詰めてきた。

トロールがその事実に気づく前に斬撃が襲う。

 先ほどとは比べものにならない程の攻撃を繰り広げる。

 少年の腕はトロールの100%の力を何度も受けている影響か、真っ赤に腫れていて骨が何箇所か折れていた。

しかし攻撃はより苛烈さを増していく。

 最後の抵抗かトロールは棍棒を思い切り振るう。

しかし少年はそれを2本の剣で受けると一瞬で弾く。

さらに、


「円弧....」


無防備になった瞬間に思い切り跳ね、その勢いで思い切り2つの剣を振り上げる。

顔を斬られたトロールは痛みに悶えながら、なんとか距離を離そうとする。

 だが、少年はそれを許さなかった。


「月花...」


まず横薙ぎで腹を切り、振り上げる。


「叉華さか」


空中で両腕をクロスさせ、同時に振り抜き、斬りつける。


「乱禍....」


そして片方の剣で横一文字、もう片方を振り下ろし、腹を蹴る。


「雪月花!」


最後に月花の強化版である雪月花をつかう。

まず横薙ぎをし、そのままの勢いで振り上げ、思い切り振り下ろす。最後、音を置き去りにして一閃する。

 抵抗などする余裕がなかった。

トロールはその巨体を地に沈め、動かなくなる。

 だが少年はそれに見向きもせず、ただじっと立っていた。まるで何かを待つように。



***



 反応が急に消えた。

直接視認出来なくても魔力を感知できるので何一つ問題がない、はずだった。

 必死に走る。

たぶんトラップ系の罠に引っかかったのだろう。

私は下への階段へ急ぐ。

同じ階に行けば、感知できるはず。

 深い後悔に苛まされる。

大侵攻の真っ只中だからダンジョンが活発化するくらい予想できてたのに。

 3層目に着く。

まだ気配がない。

 下へ急ぐ。


「ああ!うっざいわね!」


 魔物は全て焼き払う。

20層までだったら敵を余裕で倒せる。

もし、それよりも下だったら。

いや、今は考えない。

 急ごう。

4層目!まだ感知できない。

歯軋りをしながら階下へ向かう。

もし、オークやトロールとかに襲われてたら。

最悪な予想が頭をよぎる。

懸念を振り払いながら走る。

 5層目!

ん?こっちの方向から微かに。

走る。ひたすら走る。

走った先で目にしたものは、

 死体が積み重なった大きな部屋の中に立っている人。

傍らにはトロールの死体がある。

トロール?なんでここに。


「ギル!貴方が倒したの?」


 よかった生きてたのね!

だけどトロールはどうやって倒したのかしら。

疑問を持ちながらも一息ついて近づいた瞬間。

私は咄嗟に体を後ろに倒す。

だが、一瞬遅かったようで、頬から血がでる。


「ギ、ギル?」


ギルは無表情で私に近づき、二本の剣を構えて、見下ろす。


「あ、アンタ、ギルじゃないわね!はやく返しなさい!」


 少しびっくりしたが、冒険者たるもの、常に落ち着きを払っていなければならない。

鑑定スキルを使う。


Lv.1


筋力 16

魔力 16

敏捷 15

物防 10

魔防 6

幸運 10


スキル

剣術lv.5


ちゃんとレベルは上がったのね。

いや、それよりも何で剣術スキルを持ってるのよ!

しかもlv.5って祝福を受けてないのになんでレベルがそんなに高いのよ!


「刺突...」


さらに、ギルの剣が光るのを見て、私は驚愕を隠せなかった。上級武技?まあ、レベル5だからギリギリ使えるか。

ステータスにモノを言わせて5mくらい距離を離す。

私がさっきまでいた場所には剣が刺さっている。

 私はローブの中から杖を取り出し、構える。

私がギルを助けないと。

 大きく息を吸い、集中する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る