第5話 訓練

「これで7体目か」


 ゴブリンの体に突き刺した剣を抜きつつ一人愚痴る。

最初は師匠も倒すのを手伝ってくれていたが途中からは用事があると言ってどっかに行ってしまった。

しかも厄介な宿題も残していった。

なるべく魔法を使って倒せと言っていた。

 魔法かぁ。

火魔法に関しては圧倒的火力不足なので足を引っ張るだけ。

呪術はなぁ。

俺はついさっきの出来事を思い出す。




「ギル、一回呪術使って見なさいよ」


3体目を倒したあと、師匠が急に俺に向かってこう言ってきた。


「呪術ですか。わかりました!」


 頭で呪術について深く念じる。

すると単語が幾つか浮かび上がってきた。

その中から便利そうなのを選んで近くのゴブリンに目掛けて放つ。


「スピードダウン!」


MPを大きく消費したような気がする。

そして手の平から蛍のような小さな光が飛び出し、ゴブリンに当たる。

するとゴブリンの動きがほんの少し遅くなった。


「おー、5%ダウンかー。使えないわね」


師匠はどうやらステータスを見破るスキルをもっていそうだ。

でもたくさんMPが減って5%ってコスパ悪すぎだなぁ。MPが増えたらマシになるのかな?

 俺は向かって来るゴブリンと戦いながらそんなことを思っていたのだった。





 一人でゴブリン倒すとなるとかなりの時間がかかる。

しかも1戦1戦気が抜けない。

実際師匠がいなくなってからは10倍も倒す速度が遅くなった。

理由は簡単。俺の筋力が足りないのか剣で切りつけても浅い傷しか負わせられないからだ。

師匠はどれくらい強いのか気になる。


「んっ?」


足跡が聞こえる。急いで道を戻る。

今の俺は正直言うと犯罪行動真っ只中である。

もし冒険者でないことがバレたらヤバいことになるのは明白だろう。

師匠にも念押しされたので本当に危険なのだろう。

影に隠れて息を潜める。

足跡の主はそのまま通り過ぎていった。

 ふう、緊張した。

 そして俺はゴブリンを倒す作業に戻った。

そういえばこの階層ではゴブリンしか出ないらしい。

もっと強くなったらたくさんの魔物と戦って見たいな。

 3匹くらい倒したところで師匠が戻ってきて帰るわよ、と言って丸い門を出す。

どうやらこの穴は師匠のスキルらしい。

ますます謎は深まるばかりだ。

 道具屋に帰った俺はそのまま眠り、次の日からはいつもの業務に勤しんだ。

週末は師匠とゴブリン退治、平日は道具屋の仕事というサイクルが続いた。

しかし2週間後、休日なのでゴブリン退治に行こうとしたら師匠が、


「今日は呪術の訓練をするわ!教会に行くわよ」


と言って、北通りに向かって行った。

俺は慌ててついて行く。

なんで呪術の練習に教会に行く必要があるのか。

不思議に思いながら教会に向かう。

しかし答えはすぐに分かった。

 北通りを外れて少し進んだ先に並んでいる教会。

その一番奥に俺たちの目的地がひっそりと佇んでいた。

ツタが絡まっており、雑草が伸び放題。

見るからに荒れ果てている所に師匠は躊躇なく入っていく。

俺も遅れずについて行った。


 教会の中は外観と比べて綺麗だった。

一番奥、スタンドガラスがある所に一人のシスターが立っていた。


「ミレイ!久しぶり!」


ミレイと呼ばれてシスターは振り返る。


「....あら、サヤ...じゃない。...久しぶり。....お隣にいる子供は....だれ?」


え?顔色わる。大丈夫かな?

血行が良くないのか、肌は青白く、目の下にはクマが溜まっている。

さらに髪もボサボサで手入れをしている様子もない。

....シスターとしてあるまじき格好だと思うのだが。

しかしいつものことなのか師匠は特に気にすることもなく、質問に答える。


「ギルは弟子よ。ところで進捗はどうかしら?」


「...ごめん。....まだリインカーネーションは...取得できて...ないの」


リインカーネーション?なんだそれ。

俺が疑問に思っている間も会話は進んでいく。


「大丈夫よ!ほら!それよりも連れてきたわよ!教えてあげなさい!」


「....ふーん」


ミレイさんは俺の事をじっと見つめる。

 俺は少し照れ臭くて視線を逸らすと、


「....こいつ、才能...全然ないよ。...大丈夫?」


「しょうがないじゃない。人を選んでる時間なんて無いわ」


物凄く悪口言われてる。

俺が内心傷ついていると、師匠はそれを見かねて、


「でもギルは戦闘のセンスだけはあるから、完全な雑魚ではないわ!それじゃ、後は頼んだわよ!」


言うだけ言って帰ってしまった。

残された俺は助けを求めてミレイさんを見ると、


「...サヤは昔からあんな感じよ...とりあえず今から...呪術について...教えてあげるわ」


と言って脇にある部屋の中に入って行った。

大丈夫だろうか。これから俺はどうなるのか。

 俺は只々不安だった。

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