幼馴染集結

「さぁ皆。一杯食べてね‼」


 明乃さんが今日彼女達を呼んだのは、夕食をご馳走するつもりだったようだ。カナ曰く、僕の復活記念と見舞いへの感謝への気持ちから明乃さんがやると言い出した事らしく、明日は土曜日ということもあって皆家に泊っていくらしい。一体この家の何処に五人も泊る場所があるのか不思議なのだが……突っ込むだけ野暮だろう。


「どう? 美味しい?」

「はい。とても美味しいです」

「そう。よかったわ」


 明乃さんの料理はフレンチだった。しかもそれらすべてが尋常ではないほど手が込んでおり、少なくとも一般家庭で出せる味を軽く超えていた。


 そんな中僕が特に気にいたのは白身魚のクリームソース掛けだ。魚は油で揚げてあり、その上にかかっているクリームソースがまた美味で、濃厚でありながらくど過ぎず、揚げた白身魚との間で絶妙なハーモニーを奏でていた。


「皆はどう? 美味しい?」

「はい‼ とても美味しいですわ‼ こんなおいしい料理初めて食べましたわ‼」

「あら? そう? ふふふ」

「ええ。サラダもどれも新鮮ですし、メインの料理もすべて手が込んでいるのがよく分かります。その中でも特にサラダにかかっているドレッシングが気にいりましたわ。今まで食べたことがありません。一体どこで売っているのですか?」

「売ってないわよ。だってこれ自家製だもの。わ・た・し・の」

「これは香苗さんのお手製なのですか? 香苗さんはとても料理がお上手なのですね」

「……まあね」


 カナの奴……人に取り入るのは上手いな。適確に人の喜ぶことを言っている。それにカナはお嬢様であり、もっといいものを日常的に食べている気がする。そんな彼女の美味しいという言葉はあまり信用できない。


「……あざとい」

「何か言いましたか? 杏?」

「いえ。何も。それよりも章ちゃん。はい。あ~ん‼」

「え、ちょ……あ、杏さん……?」

「あ、貴方何やっているの‼ そ、そんなうらやま……じゃなくて食事中にはしたないですわよ‼」

「はしたなくない。私はただ章ちゃんの体をいたわっているだけ」

「別にいたわらなくても……」


 大体僕の体は既に完治しているわけで、腕も普通に使える。だから別段人から食べさせてもらう必要などないはずなのだが……


「それなら私がやりますので杏さんはお構いなく‼」

「いやいや。そういうカナリアこそ気にしないでいいよ?」

「「ふふふふふふふふふ」」


 な、なんだろう。顔は笑顔なのにこ、怖い……


「章。章」

「ん? ええと君は確か……」

「葵」

「あ、そうそう葵だ」

「……名前忘れるなんてひどい」

「ゴメン。ゴメン。それで何かな?」

「食べさせて?」


 今度は食べさせてと来ましたか……


「なんでかな?」

「……自分で食べるの面倒くさい」

「ええ……」


 面倒くさいって……この子の学校生活本当に大丈夫なのかな? なんかすごく心配になってきた……


「葵。自分で食べろ。章が迷惑しているだろうが」


 ここでなんと驚き秋葉さんから助け船がとんできた。先ほどは僕の事を殺さんばかりの様子だったのに、今は完全になりを潜め、大人しくしている。


「……なら私が食べさせてあげる」

「なんでさ!?」

「……いつもお世話になっているからそのお礼……?」

「そうして疑問形なの!?」

「……?」


 『章が何言っているのかわからない』みたいな顔止めろ‼


「ふぅ……食った。食った」

「食べるのはや!? というか食いすぎじゃない!?」

「ん? そうか? 私としてはこれぐらい普通だぞ?」

「そ、そうですか……」


 いくら運動していて、消費するエネルギーが多くてもその量は明らかに食いすぎだ。それでいて太らないんだから女子は、きっと唯の事を羨むだろう。現に先程まで喧嘩していた杏とカナが唯の事を憎悪の籠った目で見つめている。


 二人共安心しなさい。この子は確かに太らないかもしれないけど肝心な所に栄養が……


「章。一発殴らせろ」

「……殴ってから言うな」

「あ、すまん。つい手が……」

「大丈夫ですか? もうあなたはもう少し頭で考えてから行動をしなさいまし」

「め、面目ない」

「章ちゃん。大丈夫? 痛くない? 病院行く?」

「大丈夫、大丈夫。これぐらいなんでもないさ」

「そう? でも痛くなったらいつでも言ってね?」

「あ、ありがとう」

「章」

「ん? 何かな?」

「その……さっきはゴメン……いきなり首絞めたりして」

「あ、うん。気にしないでいいよ」

「……ごめん」

「そんなに落ち込まないで。僕としては本気で気にしてないんだから」  


 本当は結構気にしている。だってあの時僕はマジで殺されかけたのだ。それを気にするなというほうが難しい。でも当人が反省しているのだ。そんな彼女の事を責めるのはいくら何でも酷だろう。だからこそ、ここは笑って許してあげないと……ね。

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