第5話
「聖女マリア様!
これはいったい?!」
「狩った鹿です」
五人の猟師が全員、一度目の鳥の販売と穀物の購入を終え、二度目の販売を終えた最初の猟師が森にやってきた時、聖女マリアの足元には鹿が五頭倒れていた。
どれも大きな牡鹿で、繁殖期前で雄だけの群れを作っていたのだろう。
体長が一九〇センチ、体重が一五〇キログラムを越える大型牡鹿ばかりで、とても食べ応えがありそうだった。
「直ぐに処理してくれますか?
肉は売れるでしょうね?
角や皮も売れるのですか?」
「はい、聖女マリア様。
まだ生きているのですよね?」
「はい、かわいそうですが、生きたまま血抜きしないと、美味しい肉にならないと聞いた事があります。
仮死の状態のとどめていますから、後は任せますね」
戻ってきた猟師は、聖女マリアの投擲の腕前に感心していた。
自分程度の猟師では、足元にも及ばないと思い知っていた。
同時に、解体を任された責任感がずしりと両肩にのしかかっていた。
だからこそ自分一人で解体を始めず、準備だけを整え、仲間が戻るのを待った。
その間に聖女マリアは、猟師が持ってきた籠に薬草を入れていた。
鹿の脚をロープでくくり、木に逆さに吊るした猟師は、後から戻ってきた猟師に血を貯める壺や鍋を持ってきてくれるように頼んだ。
猟師達は貧民街で生きてきた者達だ、売れるところは売って金にして、売れない所は血の一滴も無駄にはしない。
鹿の血は売れないので、貧民街では大切な食材になっていた。
鹿の脂と一緒に炒め煮されたり、丁寧に綺麗に洗った小腸に、香草・穀物・内臓と血を一緒に詰めて、ソーセージにするのだ。
腎臓も香草と一緒に炒めたり、炒めた腎臓をパイにしたりする。
舌も心臓も食べ易い大きさに切って、炒めたり焼いたりして食べる。
肝臓は焼いたり煮たりする事も多いが、たっぷり塩を使ってレバーペーストにすると、とても美味しくなって多少日持ちもする。
パイプと呼ぶ動脈が好きな者もいる。
大腸も丁寧綺麗にい洗えば塩焼きにしても美味しいし、炒めてもシチューに入れても美味しい。
蛋白質を全粒パンで得ている貧民達にとっては、売り物にならない内臓でも、滅多に食べられないご馳走なのだ。
五人の猟師達は慎重に解体した。
最初に一滴も無駄にしないように血抜きをした。
次に熱や内臓で精肉が悪くないように、腹を裂いて一気に内臓を抜く。
抜いた内臓は小川の清水で丁寧に洗い冷やす。
貧民達にとっては高価に売れる皮を丁寧には剥ぎ、同じく精肉として売れる部位は丁寧に切り分ける。
精肉の分け方は、ロース、ヒレ、シンタマ、外モモ、内モモ、タン、スネ、ウデ、ハツ、バラ、カルビ、パイブに分けられろ。
五人は商店街の肉屋に売りに行った。
思ったほどの値段で買い取られない分は、貧民街の人達にふるまうと聖女マリア様が言った事で、多くの貧民が集まっていた。
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