第2話
前世の経験で、緊急を要する患者の見極めができる聖女マリアは、まず胸が潰れている子供の治療を行った。
一人二人三人と、眼を離したら死んでしまうかもしれない子を、立て続けに高位治癒術で癒す。
全力を使えば一度で癒せるが、わざとわずかに時間を置き、一人づつ癒す。
「聖女マリア様。
湯が沸きました」
ただのお湯。
でも薪一本も無駄にできない貧民街では、ケガをした孤児達のためとはいえ、大量のお湯を沸かすのは金銭的に厳しいのだ。
それでも、少しでも余裕のある者が、その日の食べ物を用意できたものが、薪一本を持ち寄って、せっかく城外の泉まで行った汲んできた飲料水を持ち寄って、孤児達のために湯を沸かしてくれたのだ。
「ありがとう。
よく見ていてください。
ケガをしたところに石や砂が残っていると、そこから腐ってくるのです。
きれいに洗わなければいけません。
洗う水が汚れていてもいけません。
一度熱して冷ました水を使わなければ、水のせいで腐ってしまいます。
見た目にきれいに見えても、必ず一度熱してください。
貴方達も、傷口が腐って死んでいった者を見たことがあるでしょ?」
「「「「「はい、聖女マリア様」」」」」
貧民街の人間は、生死にかかわるようなケガをしても病気になっても、高額な治癒術を受ける事などできない
治癒術師よりは安価だが、医師や薬師に治療してもらうのも不可能だ。
家伝の薬草を使うか、いかがわしい本当に呪術が使えるかどうかも分からない呪術師もどきに頼むか、家で寝ているしかない。
そんな寝たきりの家族や隣人が、徐々に傷口を腐らせて死んでいく姿を、貧民街の人間は普通の日常として過ごしてきた。
聖女マリア様がこの貧民街に現れるまでは。
貧民街の者達にとっては、治癒術が使えるのにほとんど治療費を受け取らず、貧民達を治療してくれる聖女マリア様は神同然だった。
だが、この世界で泥水を啜って生きてきた貧民達は、この幸運が長く続かない事を骨身に染みて知ったいた。
聖女マリア様がどれほど高貴な慈愛の御心を持たれ、貧民達を助けようとしてくださっても、絶対にそれを許さない者達がいることを知っていた。
聖女マリア様もそれを分かっておられるのか、常に自分がいなくなった時の事を考えて、貧民にも可能な治療法を授けてくださる。
本当は常に側にいて治療術を学ぶ弟子兼任の小間使いをつけたいのだが、貧民達にそんな余裕はなかった。
皆その日の食糧を確保するのに必死だった。
だから、聖女マリア様が治療する場に居合わせた者が、その時に治療術を覚える形が自然とできあがっていた。
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