第3話

 国王が闘神殿との正面対決も辞さぬと言ったあの時、また闘神様が降臨されるかと思いましたが、降臨されませんでした。

 だからグッと怒りを抑え込みました。

 正直感情を抑えるのは難しかったですが、闘神様が罰を与えないというものを、私が個人的に私刑を行うわけにはいきません。


 そうあの時は思ったのですが、今は少し反省しています。

 闘神様に全てをゆだね、自分で考える事を放棄してしまったら、それは人間ではなく、傀儡となってしまいます。

 幾ら神様に仕えると言っても、言いなりになって動く人形になってしまったら、人間の誇りも尊厳もなくなってしまいます。


「聖女様。

 国境でございます。

 策を用いますか、それとも正直に出国されますか」


「正直に出国しましょう。

 この国に残った闘神殿の方々に迷惑が掛かってはいけません」


 追放刑となった私ですが、一人ではありません。

 本当は一人で動きたかったのですが、今回の一件もあり、闘神殿側が聖女を一人にはできないと、強硬に言ってきたのです。

 私は他人に干渉されるのはもちろん、自分のプライベート空間に誰かがいることが大嫌いなのです。


 それは肉親でも同じです。

 だから私も強硬に反論してのですが、闘神殿側も強情なのです。

 向こうにも聖女を護るという正義があるのでしょうが、嫌なモノは嫌なのです。

 激論の末、護衛を一人だけ認めるしかありませんでした。

 それが今話しかけてきたグレン。


 闘神殿の秘蔵子で、知勇兼備の美丈夫。

 闘神殿の聖堂騎士団員で双剣の名手、高司祭の資格まで持っています。

 軽くウェーブした山吹色の髪、金色の瞳、菜の花色の肌、一九〇センチの身長に女性信者を熱狂させる美貌。

 これで王太子のような色情狂なら、女の敵になっていたでしょうね。


 まあ、グレンは闘神殿への信仰心というのか、闘神様への忠誠心というのか、絵にかいたような闘神殿の高司祭ですから、女性と間違いを起こすことなどありません。

 それに、グレンには悩みというか、人に言えない秘密があります。

 グレンは魔眼を持っているのです。

 闘神殿の高司祭でありながら、魔眼を持っている事が、グレンを謙虚にしているのかもしれませんね。


 闘神殿側がグレン一人の護衛を認めたのも、私を襲う集団を魔眼で返り討ちにし、魔眼の通用しない相手は双剣で斃す。

 私がケガをした場合は、高司祭級の治癒魔法で癒すこともできる。

 闘神殿が私のために用意できる最強の護衛でしょう。

 さあ、まずは自力で軍資金を稼がないといけません。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る