第3話

 もし、あの時、戦いになっていたら、コナー伯父さんが勝っていたでしょう。

 貴族としての誇りと気概が天地ほど違うのです。

 伯父さんがウィンターレン公爵やラングストン侯爵に負けるはずがありません。

 ですが、伯父さんにはどうしようもない弱点があったのです。

 私です、私と言う弱点があったのです。


 義母、いえ、母などとは言いたくありません。

 後妻と言うべきですね。

 後妻のアイラが、私を人質にしたのです。

 酸で焼かれた顔の傷が癒えていない私を、進撃してくる伯父さんの前にまで無理矢理連行して、これ以上進むなら殺すと脅したのです。


 伯父さんは苦しまれました。

 ここまで準備するのに多大な費用がかかり、領地経営を圧迫します。

 ウィンターレン公爵領やラングストン侯爵領を奪うか、莫大な賠償金を手に入れなければ、ペンブルック侯爵家は破綻してしまうかもしれません。

 ですが伯父は苦悩してくれました。

 私を助けるために、不利な条件で交渉は始めてくれました。

 領地や金ではなく、私の命を重んじてくれたのです。


 ですがここで救世主が現れました。

 レオナルド様です!

 この時はまだ第一王子だったレオナルド様が、こう言ってくださったのです。


「人質を取っての交渉など卑怯千万。

 貴族にあるまじき下劣な行いである。

 これでペンブルック侯爵の方が正しい事が分かった。

 アイラという腐れ女がグレイスを毒殺して、ジェミーを傷つけたのだ!

 この戦いの結果がどうあろうと、私は二度とウィンターレン公爵とラングストン侯爵の顔は見ない。

 私が参加するあらゆる場で二人を排除しろ」


 幼くて何の権力もなかったレオナルド様が、精一杯に援護をしてくださったのですが、それが大きく事態を動かしました。

 ウィンターレン公爵とラングストン侯爵が驚き慌てたのです。

 幼いながら俊英と評判の第一王子に毛嫌いされる。

 第一王子のおられる場所には参加できなくなる。

 事実上の王宮追放です。


 交渉の内容が激変したそうです。

 私の安全対策とアイラの処刑が絶対条件で、それに賠償金や台所領の返還の多寡が加わる形で交渉が進みました。

 このまま終われば、全ては丸く収まったでしょう。

 レオナルド様が顔に焼印を押され、追放される事もなかったでしょう。

 ですがそうはいきませんでした。

 またアイラが暗躍したのです。


 アイラは国王と交渉したのです。

 生き残るために王とベットを共にしたという噂ものもあります。

 ラングストン侯爵ローワンとベットを共にして、王の側室になっていたローワンの妹イザベラを通じて王を動かいたという噂もあります。

 そのイザベラが腐れ外道のネイサンの母です。

 私を助けるために動いたことで、レオナルド様は有力貴族を敵に回してしまわれたのです。

 そしてこの時も惰弱な王が、正しい被害者を踏みつけにしたのです。

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