幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

第1話

「王太子レオナルド殿下。

 いや、王国の秘宝を私欲で盗んだ大罪人レオナルド!

 本来なら死刑にするところだが、王太子であったので命は取らない。

 王太子の地位を剥奪して平民に落とし、追放刑とする。

 だがその罪は広く周知しなければいけない。

 よって顔に罪人に焼印を押して追放刑とする。

 それでよろしいですね、国王陛下」


「通常では修道院送りにするのではないか?」


「いえ、それでは甘すぎます。

 王家に残る魔法薬を勝手に使おうとするなど、絶対に許されません。

 あの魔法薬は、後継者のいない国王が重体になった時にだけ使うモノです。

 魔力を失った世界では、何物にも代えがたい秘宝です。

 それを自分の婚約者の顔の傷を治すのに盗むなど、絶対に許せません。

 魔法薬を使うというのとは、陛下の命を奪うのに等しいのです。

 修道院送りでは甘すぎます」


「そうか、では追放刑は仕方がないとして、焼印は残虐過ぎるのではないか」


「いいえ、そんな事はありません。

 そもそもこの件に関しましては……」


 駄目です。

 誰も王太子殿下を庇いません。

 皆、第二王子のネイサンに脅迫されたり懐柔されたりしています。

 これがネイサンの仕掛けた罠、冤罪度だと知っているのに!

 それでも誇り高い貴族ですか!

 許し難い惰弱で強欲な連中です。

 必ず思い知らせてやります。


 「やれ!

  遠慮するな!

  国王陛下の命を危険にさらしたのだ。

  思い知らせてやれ!」


 ネイサンが邪悪な愉悦に顔を歪めています。

 ネイサンのしつこい要求に、国王は全てを認めてしまいました。

 ネイサンの思惑通りです。

 国王は誰も愛していないのです。

 王太子殿下だけでなく、ネイサンを含めた王子王女の誰も愛していません。


 ネイサンはそれを見越して今回の暴挙に及んだのです。

 しつこく要求すれば、面倒になった国王が認めると。

 そう予測して動いたのです。

 そしてその通りになっています。

 しかも国王は、自分が承認したことの結果を見る事を拒否したのです。

 この場にいないのです。

 一国の国王として無責任過ぎます。


 ジュウウウウウウ!


 ああ、レオナルド様の顔が焼かれてしまいました!

 赤く熱せられた焼鏝が額に押し当てられてしまいました。

 私は、義母に顔を酸で焼かれた時の痛みを、まざまざと思いだしました。

 その場で倒れそうになりましたが、意志を総動員して踏みとどまりました。


 眼を背けてはいけません!

 逃げ出してもいけません!

 この場にいる連中を、いえ、この場いなくても、レオナルド様を陥れた連中の顔をこの目に焼き付けるのです。

 そして何を失っても復讐するのです!

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