第5話

 龍鬼は本当の意味で鬼となった。

 自分だけで四族を滅ぼすのは時間がかかるうえに、見逃してしまうとも考え、諸族を利用しようとした。

 諸族融和を目指していた理想家から、残虐非道な謀略かとなったのだ。


 人族と仲のよかったゴブリン族の小国を襲い、国民十万人を一日で皆殺しにした。

 そして隣のフェアリー族の小国に、人族に陰で味方していたら滅ぼしたと伝えた。

 同時に、これからも四族に協力したり友好関係を持つ諸族は滅ぼすとも伝えた。

 これにリザードマン族からの情報が加わり、諸族は恐怖した。

 そして即座に動いたのだ。

 四族皆殺しに。


「逃げろ!

 急いで逃げるんだ!

 家財道具は諦めろ!」


 あるコボルト族の村が襲われていた。

 鬼族襲撃にかかわっていた種族ではない。

 国を離れてオーク族の国で働くようになったコボルト族の村だ。

 奴隷とは言わないが、雑用をして生きている下層民の村だ。


 そこがオークの軍勢に囲まれ攻撃されている。

 オーク族が四族との関係を否定するために、国内の四族を滅ぼそうとしているので、目標はこの村だけではなう。

 数十の村や集落が襲われている。


 いや、オークの国だけではない。

 四族以外の国では急ぎ同じことが行われている。

 皆生き残るのに必死なのだ。

 既に十数国が龍鬼によって滅ぼされている。

 老若男女の区別などない。

 赤子ですら殺されているのだ。


 種族もゴブリンだけではない。

 ノール族とオーガ族の国も滅ぼされており、他の諸族も無関係を証明しようと必死だったのだ。

 四族の鬼族襲撃を知らなくても、普通に友好関係を築いて交易していた隣国も、復讐の狂気に囚われた龍鬼を敵に回したくなかったのだ。


 四族は滅びかけていた。

 大魔境に逃げ込んだ者以外は、どこにも逃げ場所がなかった。

 大陸から逃げ出そうとした者もいた。

 特にハーピー族は空を飛んで逃げようとしたが、

 鳥人族と竜人族に追撃され逃げられなかった。


 人族は特に狙われていた。

 各地にあった人族の小国は、近隣諸国に攻め込まれて皆殺しにされた。

 一番大きかった桃太郎の国も、桃太郎以外殺されてしまった。


「ふむ。

 ここまで非道になれるとは思わなかった。

 これでは人は滅んでしまうな。

 まあ、いい。

 俺さえ生きていればどうとにもなる。

 それに人間は弱すぎる。

 他の種族との混血の子孫を残し、新たな人族を創り出さねばならん。

 竜人族や吸血族の娘を攫ってきてはらますか?

 グっハ!」


「そんな事はさせん。

 お前はここで死ぬんだよ、桃太郎」


 桃太郎の心臓は龍鬼の剣で一突きにされていた。

 隠れ蓑と隠れ笠で姿を隠していても無駄だった。

 打ち出の小槌で創り出した防具も役に立たなかった。

 延命袋も無意味だった。

 龍鬼が肌身離さず持っていた愛刀は、魔獣の王すら滅ぼせる剣、魂滅剣だ。


「打ち出の小槌さえ取り戻すことができれば、一族を蘇らすことができる大魔術に必要な魔道具を創り出せる」


 龍鬼が本当に鬼となって桃太郎を追い詰めたのには理由があった。

 血族の魂が消滅してしまう一年以内に蘇生の大魔術を行うためだった。

 だがそのためには、収集困難な素材を数百種類も集めなければならなかったのだ。

 だが何とか間に合った。

 憤死した鬼族は全員蘇った。

 大魔境の奥深くに逃げた麗鬼は龍鬼の子供を生み、生き延びた四族と共に小さな集落を作り、後に小国となった。

 めでたし、めでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る