巨漢の男爵令嬢は婚約破棄されて婚約者を殴り殺してしまいましたが、巨漢好きの王太子に溺愛されました。

第1話

「アラン男爵家令嬢オリビア!

 バンバリー伯爵家令嬢アメリア様に対する数々の無礼許し難い!

 そのような貴族の常識を知らぬ無礼者と結婚などできぬ!

 本日ただいまこの場で婚約を解消する!」


 予想通りです。

 私は身長二メートルを超える巨漢なので、鈍いように思われています。

 ですがそんな事はありません。

 現役将軍の父に鍛えられ、諜報戦も学んでいます。


「それになんだそこ巨体は!

 とても女とは思えんぞ!

 そのような醜い身体でよく社交界にでてこれるものだ!」


 長々と私に対する悪口が続きます。

 私は我慢するしかありません。

 私が思うままにふるまってしまうと、死者が出てしまいます。

 怪力無双の父に鍛えられ、現役騎士団員をしのぐ怪力なのです。

 いえ、人と比べることができないくらい怪力なのです。

 ほんの少しの気のゆるみで、手に取った茶器やグラスを粉々に砕いてしまいます。

 だから細心の注意を払って、ゆっくりと慎重に動いています。

 それがとても鈍く見えるようで社交界では何を言って大丈夫だと思われています。


「そもそも野蛮な冒険者を、栄光ある貴族に列したのが間違いなのだ!

 怪力しか取り柄のない脳足りんに、最下級の男爵位とはいえ爵位を与えるなど!

 国王陛下もなにを考えておられるのだ!

 歴史ある我々貴族を蔑ろにされるにもほどがある!

 そもそも先の戦に勝てたのは、我ら名門貴族の力なのだ!

 ジャックなど足手まとい

 グッチャ!」


 私は、無意識に殴っていました!

 父に対する聞き捨てできないような悪口雑言です!

 先の戦争では、こいつら卑怯者は逃げ回るだけで、全く戦わなかったのです。

 いえ、それどころか、敵国に寝返る準備までしていました。

 実際に味方を背後から襲ったモノまでいるのです。

 国土の大半を失い、王都が包囲されるほどの苦境だったのです。

 ストップフォード王国は、滅亡寸前にまで追い詰められていたのです!


 その苦境を救ったのが、父の組織した救国義勇軍です。

 父は冒険者や難民で組織した救国義勇軍を率い、背後からポーターリントン王国軍の本陣に斬り込み、たった一人で敵総大将と幕僚を皆殺しにして、形勢を逆転させた救国の大英雄なのです。

 その後も国内を転戦して、戦前の国境線にまでポーターリントン王国軍を押し返した大英雄なのです。

 その父に対する悪口は絶対に許せません!

 

 でも、しかし、ちょっとやり過ぎたかもしれえません。

 私の婚約者だった、テニソン子爵家令息オリバーがピクリとも動きません。

 それ以前に、顔が原形をとどめていません。

 顔の皮は厚かったようで、砕かれた骨や肉は飛び出ていませんが、血袋のように真っ赤になっています。

 顎の骨も頭の骨も粉々になっているようです。

 これは、死んでいますね……

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