第5話

「だけど、まあ、なんだね。

 こうして直接話せば情が湧く。

 こうして肌を接しているとなおさらだ」


「やかましい!

 誰と誰が肌を接しているというのだ!」


 盗賊の軽口にアーダが激高しています。

 拘束されているのを、肉体関係があったように表現されたら、女性が怒るのも当然でしょう。

 盗賊はアーダを怒らせてどうする心算なのでしょうか?


「怒った顔も可愛いね。

 とっても魅力的だ!

 このまま逢瀬を続けたいところだけど、お互い忙しい身だ。

 今日はお暇させていただいて、次の機会を待ちたいと思う。

 さっき乙女は盗みを諦めたら見逃してくれると言われたよね?

 だったら今日は諦めるから、逃がしてくれるかな?」


「今日は諦めるではなく、もう二度と手を出さないと誓って欲しいわね。

 どうかしら?」


 私はちょっと探りを入れてみました。


「それは欲張りすぎだよ。

 俺は盗賊だよ。

 盗みを諦めるわけないじゃないか。

 この娘の命と引き換えに、今日だけ諦めるんですよ。

 分かってくださいますか?」


 当然の答えですね。


「仕方ありませんね。

 家臣の命と秘宝の重みを考えれば、本当はここで貴男を殺しておくべきでしょう。

 ですがそれでは普通の主人と変わりませんね。

 新たな国づくりを進めるファルン王国の摂政なら、忠誠心を優先すべきですね。

 ここに誓いましょう。

 アーダを解放したら貴男を逃がしてあげます。

 みなに命じます。

 この男がアーダを解放したら、必ず逃がしてあげなさい。

 アーダもです。

 アーダも今ここで誓いなさい」


「そんな!

 私を見捨ててこの男を斬り殺してください! 

 王家のため国のため、わが命など惜しくはありません!

 盗賊の侵入を許し、人質になるという失態を犯したのです。

 おめおめと生き続けることなどできません。

 どうか、どうかお願いします!

 私に名誉を考えてくださるのなら、私を見捨ててください!」


 忠誠心はうれしいですが、その答えでは不合格です。

 盗賊程度を相手に命を捨てるのは許しません。

 アーダが命懸けで戦うべきは、モンザ王国を相手にした時です。


「だめですよ、アーダ。

 今死ぬことも、恥を注ぐために後で死ぬことも許しません。

 アーダには大切な役目を与えます。

 恥を雪ぐ機会を与えます。

 アーダとその一族には、この盗賊を捕縛する任務を与えます。

 この盗賊が地の果てまで逃げようとも、追って捕まえなさい。

 それがアーダと一族が汚名を雪ぐ唯一の方法です。

 自害した逃げ出すことは許しません

 失敗に見合う成功を王家と王国にもたらしなさい!」


「乙女は面白いことを言うね。

 だけど本気で言っているのかな?

 俺様をこの娘っ子が捕まえられると、本気で思っているの?」


「アーダ一人ではありませんよ。

 父母兄弟はもちろん、一族も友人知人も協力してくれますよ。

 貴男こそ本気でその包囲網から逃げきれると思っているのですか?」


「クックックック!

 こいつはいい、こいつは面白い。

 だったら勝負だ、乙女!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る