第2話

「まだ我慢してください、ベルニカ。

 ベルニカには必ず働いてもらいます。

 ですがそれは今ではありません。

 その時が来るまで、仲間と武芸を鍛えてください」


「分かりました。

 乙女の願いに逆らうわけにはまいりません。

 乙女がかねてから望んでおられたように、新たな戦士を探します」


「頼みましたよ。

 ベルニカが万余の敵を打ち払ってくれる勇者なのは分かっています。

 ですが相手は十万の軍勢を動員できるモンザ王国です。

 ベルニカと同等の勇者を探してくれとは言いませんが、千人力百人力の戦士を探してください。

 私が直々に行って、頭を下げて家臣になってもらいます」


「乙女がそのような真似をされるものではありません。

 相手が勇者ならば、一騎討で負かして乙女の家臣に迎えてみせます。

 心配めされますな!」


 私と話して安心したのでしょう。

 ベルニカが勇んで出て行きました。

 私はこれからが勝負です。

 モンザ王国の使者と対等に渡り合わなければなりません。

 これは前世の知識と記憶を活用した弊害です。


 豊作や不作の記憶が鮮明でしたから、それを活用して事前に穀物を買い占めて、現物売買でも相場でも大儲けしました。

 国民の食糧は、森で狩りをしたり川で魚を獲ったりして、穀物の消費量を減らす努力をしました。


 莫大な利益を活用して、森を切り開いて新たな耕作地を手に入れ、私の直轄領として、前世で勇名をはせていた傭兵や冒険者を無名のうちに直臣に召し抱えました。

 幼いうちから彼らを率い、魔境に入って実戦訓練に励みました。

 父上も母上も反対しましたが、何もしなければ四年間も拷問されるのです。

 あんな人生を繰り返すくらいなら、魔獣に喰い殺された方が楽です。


 私の直臣団は日に日に強力になりました。

 王国の騎士団や徒士団を凌駕するのは直ぐでした。

 ほぼ毎日魔境で実戦訓練を繰り返し、魔境で得た素材を活用して武具防具を強化するのですから当然です。

 不要な素材を売却して富も手に入るので、私の騎士は独自の徒士を多く召し抱え、徒士は装備を整え騎士となり、王国軍よりも兵数が増えました。


 そんな私の直臣団に触発された王国騎士団と王国徒士団も、毎日魔境で実戦訓練するようになり、当初は多くの死傷者を出しましたが、徐々に強くなりました。

 そんな直臣団・騎士団・徒士団の後押しと、私が儲けた私財を投入して設立した私塾で学んだ文官の後押しがあって、私は摂政の位につくことになりました。

 父上も母上も政治に対する自信と意欲を失ってしまわれ、全て私に丸投げされるようになったのです。


 これには忸怩たる想いもあるのですが、前世で受けた拷問の苦痛を思い出すと、あの状況にだけは追い込まれたくないと、父上と母上に心の中で「申し訳ありません」と詫びながらも、権力を手に入れるしかありませんでした。

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