第10話 真白~前編~



――好き。


 伝えたかった気持ち。


――ずっと、君しか見てなかった。


 ずっと近くにいたけど、勇気が無くて。


――だから、今日。


 一歩踏み出して、伝えるんだー…。



 私、真白。ただいま困惑しています。

 クラスの皆が次々に下校していく、夕方。私たちの教室はやがて私と彼を除いて伽藍堂になった。

「ー…龍。帰らないの?」

 私のずっとずっと好きな人。今は窓から外を眺めている。だけど、外を見ているようで何処も見ていないようだ。

 ふわりが教室を飛び出して行ってから。ずっとー…。それに、ふわりに言ってた龍の言葉。


『俺はー…俺にとって、レディーは1人だけなんだよ』


 いつもは少し乱暴な口調で、そんな事言わないタイプなのに。あの時はー…久しぶりに見た真剣な顔して、少し悲しそうな声をして。ふわりに向かって、言ってて。

「……」

 黙ったまま風にあたり、濃い赤茶色をした短い髪が揺れている。

 私はそれを窓から指す夕日の光と影の境界線に立ち眺めていた。

「……」

――私。何となく分かってた。

 1%だけ可能生があるんじゃないかって。あって欲しいって。限りなく0%だと心の隅で思ってたけど、諦めたくなくて。

――もしかしたらって。思って。

 昼休みに、皆で髪をわしゃわしゃしたから、余った時間にふわりと一緒に手伝って貰いながら髪を整えて。

 前に雑誌を見て騒いでたら、これが好きだって言ってたから。何時もはストレートに髪を下ろしてたけど、特別な日になるからやった事ないお団子ヘアにしたんだよ。

 今思えば、あいつ素直なとき滅多に無かったや。

 様々な髪型をしたモデルの4人の中、1番左がふわりに似たゆるふわとしたロン毛。対象に1番右にお団子ヘアだった。


『お、俺はこいつのお団子がー…いいと思う。でも左のページに写ってるのはぜ、全然好きじゃねぇしっっ!』


 照れながら、そう言ってたね。

 私は口を開く。


「龍はー…ふわりの事が、好き?」

「……」


 溜めていた息を、何かをゆっくりと龍が吐くが、どんな顔をしているかは後ろ姿からは分からない。

「ー…あいつ」

 ぽつりと呟く。

「海夏を追ってー…飛んでったんだぜ」

 窓の手すりに置いていた手で髪の毛をくしゃりと掻き上げる。

――ああ。それでも。

 それでも、私は。


「私、龍が好き」


 龍が、驚いた顔をして私の方を振り向いた。それは、驚いていたが突然の出来事だったからだろう。

 直ぐに窓の外をまた眺め元の体勢に息を吐きながら戻す。


「ー…知ってた。真白がー…俺の事好きなこと」


 龍が知っていた事に、衝撃を受けた。

 どうして、と言葉にならなかったが、空気が唇から出た。

 悟った龍は少し笑いながら。


「だってお前、俺の後ろずっと着いて来てたじゃん」

「……だったらなんで!!なんでー…何も言わなかったの?」


 私は込み上げてくる行き場のない感情から涙が溢れ出す。

 諦められたらどんなに楽か。

 ふわりに嫉妬する自分が嫌いだし、もし龍がふわりが好きだったら失恋しちゃえばいいと思ってしまう自分が嫌い。大事な大事な親友にも応援出来ない龍の事もそんなこと思う自分が、大嫌い。

 真白は唇を震わせながら噛み締めた。


「諦めろなんてー…言えるわけねぇだろッッ!」


 声を荒げ、私の方に一歩踏み出し、目を見て言葉を言い続ける。


「それをしたらー…俺だって同じだろ……!!俺だって諦めなきゃなんねぇじゃねぇかよッッ!!!それにー…」


 言葉に詰まりながらその場にしゃがみ込む。


「ー…真白を傷付けたくなかったんだよ。傷付ける勇気が無かったんだよ。ー…なんで」

「……」


 龍が苦しげに溜息をつく。


「なんでー…今なんだ」


 ズキリ。

 そうー…だよね。龍だってふわりの事で、傷ついてたのに。

「ご、ごめー…さ……」

 2、3歩後ずさりした。

 その事に龍が気付いたのは、少し遅かった。

 

 気付いた時には真白は教室を飛び出していた。





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