第5話

 「ん〜…やっぱゴリラのマグカップにするわ」

 「なんで?!」

 「面白いから、お前の反応」

 「面白いって、酷くない?!!」

 「褒め言葉だって」と愉快に言いながら、スプーンコーナーの方を見て何かに興味を惹かれたらしい。

 海夏君が綺麗な澄んだ青い目をキラキラさせながら私の手を引っ張り駆け出した。

 「あっち行こう!」

 わっ……!他のクラスの男子に比べると子柄なのに、意外と力強いな。


ー…昔も、こうやって公園を一緒に駆けてたなぁ。

 あの頃はもっと身長も同じ位で、手の大きさも変わらなかったのに。

大きく、男の子から男に近づいて、成長してるんだなぁ。

そう思うとドキドキしてきた。

 「ほら、このスプーン良くね?」

 どれどれ……。

 「可愛いだろ?このゴリラスプーン!」

 な、な、ななな……。

 「海夏のバカーー!!」

 殴るッッ!殴ってやるッッ!!

 手を振り回そうとするとその前にパシッと止められた。

 「何だよ。別にお前をゴリラって言ってねーじゃん」

 ググググ。

 力強いからふるふるとあたしの手が震えてるようにしかならない。

 やっぱ、子供だよ!男の子だよ!!大人になんか近づいてないし、ドキドキなんかしてないッッ!!!

 あたしは、ぷんスカぷんスカと、先に次の所へ進みだした。

 

「ー…可愛いんだよな。妹に似て……てー…」


 俺が、兄ちゃんが早く、アイツから助けてやらないとー…。

 ふわりの怒った後ろ姿を見つめながら、海夏は瞳に強く暗い光をやどしていた。





 「「行ってきま〜す」」

 今日は海夏君の久しぶりの、学校登校。

 「ふわり、ちゃんと鍵締めたか?」

 ガチャリ。

 「ん、締まった」

 さて、学校に行きますか!

 「良く出来ました」

 あ!せっかく髪の毛整えたのにワシャワシャしないでよ。

 文句を言おうと見ると、あたしを見ながら当の本人が驚いていた。

 「……大丈夫?」

 声をかけたら異世界から戻ってきたかのようにハッとしていた。

 「あ、うん。ごめんな、なんかいつもの癖で……」

 「行こう!!」そういって手を引いて、学校に向かう。

 ー…いつもの……癖?

 不思議に思いながらいつの間にか学校に着いていた。


 クラスはいつも以上に賑わった。

 最初は皆気まずそうに、「よ、よう!久しぶりだな!元気だったか?」「きゅ、急に居なくなるからビックリしただろー?」と必死に取り繕っていた。

 「何だよ。そんなに俺が居なくて寂しかったのかよー?」

 悲しい悲しいと泣き真似をした海夏君の一言で、周りは一気にいつも通り。

 「バぁッカ!そういうんじゃなぇよ!!」

 「そうだぞ〜!人の心配を返せッッ!」

 「やだね〜」

 あっという間に人だかりが出来ちゃった。

 あたしはと言うと少し離れた所でポツン。

 真白と龍はまだ来てないみたい……。

 どんな反応するのかな。真白はともかく、龍が心配だ。

 予測不可能で何ともいえない気持ちになる。

 するとー…

 「ちょっと龍!待ってよ、置いてかないでよ」

 「あ?真白がトロマなだけだろ?」

 「待ってってば〜」

 廊下からそんな会話が聞こえてきた。


 ガララッッ


 「おはよ〜す!」











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