ComPlex Les

アリエッティ

無くしたもの

 核が落ちた。

世界に別状は無かったけど、爆弾は、幾つかの大事なものを奪っていった。

私の奪われたものは、心...。


「バンビ、いつもの酒くれる?」

「もう終わったのか。

相変わらず仕事が早いなお前は」

 丸い眼鏡を鼻に掛けた軽い口調の男がカウンターに座る白髪の女にグラスを渡す。

「頭狙って撃ち抜くだけだ、簡単だろ

殺し屋はこれだけで金が貰えるんだ」

朱色の液体を口へ傾けさらりと云った


「少しは痛む部分が無いのか?」

「おちょくってんのか。

あったらこんな事はしてない」

殺し屋に必要なものは武器を扱うスキルや経験よりも肝の座り方、しかしそれに違和感を感じない訳でも無い。


「本当に行くのか?」

「ああ、決めた事だからね。

もうここいらに依頼を任される様な悪党もいないだろうし..」

 犯罪が後を絶たないといわれた街も随分と事件が減った。現地の警察は殺し屋の存在を知りながら黙認しており

手に負えない案件の事件を密かに委ねている。

「羽振りは良いけど愉しむ〝器〟が無いんでね、それを取りに行くのさ」

「単なる噂だろ、鵜呑みにしていいのかそんなこと。」

「噂じゃないよ、見たって奴がいるんだ。〝なくした物が戻って来た〟と」

 そこに行ったら戻るのか、落ちた物を拾えるのか、とにかく隙間が満たされるという。


「安息の地、ほんとにあるのか?」

「わからない。だから見にいくんだよ

殺しの依頼がもしあればここに、名前はアンソニー・テイビス。忘れるな」

 住所と名前、そして何処に繋がるかもわからない番号が記された紙を残してバーを後にした。


「一番高い酒飲んでトンズラかよ...」

〝いつ死ぬかわからない〟と常にタダ酒を飲んでいたが、ツケを払うつもりは一生無さそうだ。


「さて、行くかぁ..!

どこまで歩けば辿り着くんだ?

地図が無いってのは不便だよなぁ。」

女は歩く

殺しから距離を置き、無くしたものをもう一度手に入れる為に。

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