第七十六話 惨め(前半)

 ベルネル達が地下に突入した後、俺は予定通りに魔力を通さないバリアで学園の敷地を囲い、その中の魔力を全て取り込んだ。

 これでもう誰も、このバリアの中ではMPの回復が出来ない。

 後はベルネル達がある程度魔女のMPを削った後に俺が突入するだけなのだが……丁度その時、まるで地震のように地面が揺れた。

 亀が俺の方を向き、声を出す。


「今だエルリーゼ! 作戦は上手くいった!

エテルナとアルフレアの同時攻撃をアレクシアが何とか防いだが、アレを防ぐほどの魔力を使ってしまった今、奴に魔力はもうない! いけるぞ!」


 っしゃあ!

 ベルネル達はどうやら無事に、作戦通りに魔女の魔力を削ってくれたようだ。

 ならば後はいよいよ締めだ。

 俺が赴き、魔女を完全に無力化してからアルフレアに封印してもらう。

 これで完全勝利である。

 それじゃ早速地下にのりこめー!

 レイラと学園長、それから数人の騎士を連れて俺は早速地下訓練室へ突撃し、更にその下に隠れている隠し階段を通って魔女がいる地下へ急いだ。

 そして現場に到着してアレクシアが張ったと思われる逃走防止用バリアを叩き割ると、その場にいた全員の視線がこちらへ向いた。

 待たせたな! 後の美味しいところは俺に任せろ!

 ベルネル達は……よしよし、誰もやられていない。

 いや、よく見たら噛ませ犬君だけ魔物にやられたのか地面に倒れているが、とりあえず死んでいないようなのでよしとしよう。

 で、えーと……奥にいるのが……誰?

 何かめっちゃ顔色の悪い、The・魔女っていう感じの女がいるんだけど、あれアレクシアじゃなくね?

 二次元とか三次元とかそういうレベルじゃなくて、別人だろこれ。

 アレクシアは一応ゲームでは隠しヒロインだったわけで、当然若々しい美女だった。

 そりゃ他のキャラクターに比べれば年齢もいってるし、少しケバいのでババア扱いするプレイヤーもいたが、それでも外見年齢は二十代前半くらいだったはずだ。

 それがどうだ? 俺の事を怯えたように見る女は……あー……よく見れば二十代に見えなくもないけど、やつれてる上に目の下の隈も凄いからあんまり若く見えないな。

 まさか偽魔女? この戦いは偽聖女と偽魔女の戦いだったのか?

 いやいや、そんな馬鹿な。


「貴女が魔女アレクシアですか?」


 なので一応確認をする。

 すると、魔女は俺から距離を取るように後ずさった。

 だがここは逃げ場のない地下だ。

 どこへ逃げようというのかね? 3分間だけ待ってやろう。

 ごめん嘘。待たない。


「お、お前が今代の聖女……エルリーゼ……か」


 魔女は俺が誰なのかを悟るや、何かをしようと目つきを変えた。

 だが出来なかったのだろう。

 その目は瞬く間に驚愕に歪む。


「ば、馬鹿な……魔力がない……」

「この一帯の魔力は全て私が取り込みました。

なので、もう魔力を取り込んでの回復は出来ません」


 マジでこいつ、即テレポートしようとしやがった……。

 だが残念だったな、それはもう封じた後だ!


「お、おのれ!」


 魔女が俺に掌を向けて闇の弾丸を発射してきた。

 俺はそれをバリアを纏った素手で掴み、握り潰す。

 いくら闇属性が無敵って言っても、こうも魔力差があれば防ぐのは難しくない。

 驚く魔女に、お返しとばかりに光の魔法を撃ち込んだ。

 魔女は常に闇パワーで防御しているので、普通に攻撃してもまず通用しない。

 しかし同種の力ならばその防御を貫く事は可能だ。

 俺の持つ闇パワーはベルネルから借りパクした僅かなものなので、本来の威力の10%程度しか魔女に通す事は出来ない。

 MPを100消費して発動する魔法でも、MP10消費した程度の攻撃にしかならない。

 が、ならば単純な話……MP1000消費してぶっぱなせばいい!

 俺のMPは50万オーバーだ。魔女が全力を費やしてようやく撃てるような攻撃でも百発以上余裕で撃てる。

 というわけで、光魔法ドーン!

 おまけで奮発して、MP五千くらい注ぎ込んでやろう。


Aurea Libertas黄金の自由


 本来は上空に向けて発射した後に拡散して多くの敵を絨毯爆撃する技だが、今回はダイレクトに魔女に撃ってやる。

 俺の手から発射された金色のごん太ビームが地下の壁ごと魔女をふっ飛ばし、轟音が収まった時にはかなり遠くまで続くトンネルが完成していた。


「あ、あわ、あわわわわわ……」


 後ろでアルフレアが震えている。

 この威厳の欠片もないのが初代聖女様です。

 トンネル内を歩いて行くと、奥の方で倒れているアレクシアを発見した。

 あんまり遠くまで飛ばさんように気を付けないとな。

 追いかけるのが面倒っていうのもあるが、飛ばし過ぎて俺が張ったバリアの外にまで行っては本末転倒だ。


「ば……化け物、め……」


 魔女が壁を背に何とか立ち上がりながら吐き捨てるように言う。

 すると俺の背後に控えていたレイラと学園長が同時に剣を抜いたが、手で制した。

 やめとけ、お前等じゃダメージ通せないから。

 まあ俺が魔法で剣を出して、それを装備させればいけるけど。


「終わりです、魔女アレクシア」


 俺がそう言うと、魔女は絶望したように顔を歪めた。

 まあここからの逆転は不可能だわな。

 俺一人でも余裕でどうにかなるのに、今ここにはレイラと学園長、それにベルネル達がいる。

 加えてエテルナとアルフレアで、本来はあり得ないダブル聖女だ。

 俺だけでも何とかなるし、俺がいなくても何とかなる。合わさる事でより盤石。

 何というか、ここまで来ると苛めだなこりゃ。


「ぐ、ぅ……ひぐっ……嫌だ……。

嫌だ、嫌だ! 終わりたくない! 死にたくない!」


 魔女が恐怖に顔を歪め、目の前にバリアを展開した。

 恐らくは残る魔力の全てを振り絞っての最後の抵抗だろう。

 とはいえ、もうテレポートするだけのMPもないはずだから、込めた魔力もたかが知れている。

 俺はその場でMP3万ほどを消費して光の剣を創り出し、バリアを斬ってやった。

 剣の形にすれば魔力ビームぶっぱと違ってずっと手元に残るので、何回も攻撃出来てお得だ。

 この光の剣ならば魔女相手でもMP3000消費相当の威力になるので、魔女のMPが万全ならば2000くらいと想定しても防ぐ方法はない。

 

「うわあ、当たり前みたいにスパッといった……。

今の、結構頑丈なバリアだったはずなのに。

……あの子には媚び売っておこう」


 何か後ろで初代聖女が威厳の欠片もない事を言っている。

 そういうのやめといた方がいいと思うけどな。

 他の騎士達も凄い顔になってるし。

 プロフェータは呆れ顔を隠そうともしてないし。

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