第六十九話 告白(前半)

 アルフレアを拾ってからもフグテンに向かっての対魔物訓練は続けた。

 その中でベルネル達の実力は確かに磨かれ、実戦の中でチームワークも研ぎ澄まされていく。

 また、アルフレアも性格はともかく実力は確かだった。

 流石は聖女が保護されていなかった時代に魔女を倒した(倒したとは言ってない)だけはある。

 大抵の魔物は軽々と葬り、初代の威厳を見せ付けてくれた。

 ただ、ドヤ顔が少し鬱陶しかったので森に隠れていた魔物を『黄金の自由』で絨毯爆撃して殲滅してやったら、しばらく俺に対してだけ敬語になった。

 やりすぎたかと思ったが、亀曰く『犬に上下関係を教えるのは躾として正しい』らしい。

 亀さん、ちょっとアルフレアに対して塩すぎん?

 ともかく能力的にはエテルナの完全上位互換だ。魔女との戦闘を前にして嬉しい戦力増強である。

 地下突入の際には、彼女も加わってもらう事にしよう。

 勿論魔女を倒せないようにエテルナと同じ杖を装備させての話だが。

 と、いうわけでアルフレアのサイズに合う制服を仕立てておく事にした。


「へえー、結構かわいいじゃない。

地下に行く時はこれを着て行けばいいの?」

「ええ、お願いします」


 学園五階で制服を手渡すと、アルフレアは嬉しそうに制服を色々な角度から見ていた。

 今はベルネル達男衆もいるからまだ着替えていないが、デザインはかなり気に入ったようだ。

 少し離れた位置には学園長のフォックス子爵もいる。

 というか俺が無理を言って、フォックスに制服を用意させたんだけどな。


「緑っていうのが嬉しいわね。私、緑色大好きなの」

「そうなのですか?」

「ええ。逆に嫌いな色は赤ね、赤。

魔物とか倒してると嫌でも目に入るからさ、気付いたら大嫌いな色になってたわ」


 なるほど、アルフレアは緑色が好きと。

 もしかして学園の女子制服が白と緑なのは、そういうのも理由なんだろうか。

 何となく疑問に思ったのでフォックスの方を見ると、彼も察したように説明を始める。


「ええ、初代聖女様の色の好みは伝わっていましたからね。

だからこそ、我が学園の制服には赤色が一切使われていないのです」

「へえー、そういう理由だったんだ」


 学園長の言葉にエテルナが納得したような声を出す。

 ここは『アルフレア魔法騎士育成機関』なんだから、当のアルフレアが嫌いな色を制服に使うわけないわな。

 全員が納得したような顔を見せる中、ベルネルだけは何かを考えるように俯いていた。

 『でも緑はダサいだろ』とか思っているのかもしれない。

 ちなみに何故アルフレアに制服を着せるかといえば俺の趣味が半分、もう半分は魔女の目を欺く為だ。

 『地下に迷い込んでしまった生徒達』を演じさせる事で魔女の逃亡を阻止するのがこの突入作戦の最重要ポイントである。

 ただの生徒だと思えば、魔女は戦闘を選ぶ(と亀が言っていた)。

 何故なら、生きて帰すと自分の安住の地である地下の事が漏れ、弱体化覚悟でここからテレポートしなければならなくなるからだ。

 奴は俺に居場所がバレる事を何よりも恐れているという。だからそれを利用するのだ。

 ともかく決戦の日は近い。

 俺がこの学園にいられるのも、後僅かだろう。



 夜。

 俺はレイラに黙って部屋を抜け出し、学園の運動場から校舎を眺めていた。

 風が髪を揺らすのを少し鬱陶しく思うが、それでもじきに見納めになる景色だ。

 しっかりと記憶に残しておこう。

 アルフレアの参戦で俺の生存率が上がったが、どのみち俺は全部終わったら偽聖女カミングアウトして逃亡する気なのでここにはいられない。

 聖女の座はやはり、本物の聖女にこそ相応しい。

 だから平和になったら、エテルナにしっかり返す。これは最初から決めていた事だ。

 そんで、誰もいない何処かでひっそりと死んで死体も発見されないようにしておけば誰も悲しまんだろ。


「あれ? エルリーゼ様」


 後ろから声が聞こえたので、振り返るとそこにはベルネルが立っていた。

 こいつ何で夜に運動場に来てるんだろう。

 俺も人の事は言えないけど。


「俺はちょっと、ここで走り込みを……」


 なるほど、決戦前に備えてトレーニングか。いい心がけだ。

 しっかしこいつ、本当に筋肉質になったな。

 最初の頃はいかにもギャルゲー主人公って感じでナヨナヨしたイケメンだったのに、今では格闘ゲームの主人公にしか見えない。

 自主トレのしすぎだ。


「けど、ここで会えてよかった……俺、どうしてもエルリーゼ様に伝えたい事があったんです」


 ほうほう、伝えたい事とね。

 それなら昼にでも言えばよかったのに。

 そう言うと、ベルネルはばつが悪そうに頬をかく。


「いえ、昼は……ずっとレイラさんがいますし。

出来れば二人きりの時に言いたい事だったんです」


 ほうほう、二人きりの時に伝えたい事とね。

 何か頬を赤らめてるし、視線も落ち着きがない。

 ……いや待てや。これやばい流れだろ。

 俺は恋愛経験などあまりないが、それでもここまで露骨なら流石に分かる。

 お前マジか? マジなのか?

 やめておけ、今ならまだ間に合う。考え直せ。

 ここは定番のLoveとlikeを勘違いしての『はい、私も好きですよ』作戦で乗り切るか?

 いや待て落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない。

 俺の自意識過剰……そうに決まっている。そうであってくれ!

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