第四十八話 手がかりを求めて(後半)
……。
っはああああああああ!? お前何やってんのおおお!?
いややってねーし! そんな事やってねーし!
こっちは流石に『実際と違うがまあゲームだからね?』で済まねーよ!
動画の中では『キター!』とか『ベルネル俺と代われ』とか『エルリーゼ俺と代われ』とか『魔法で何とでも出来るはずなのに何でわざわざ口付けを選ぶんですかねえ?』とか色々言われているがちょっと待て、マジでちょっと待て。
俺ちゃんと魔法で対処したよね? 口に手を当ててそれで酸素送り込んだよね?
何で画面の中の俺はマウストゥーマウスしてんの?
お前ホモかよォ!?
しかも一枚絵まで表示するとか……。
『ここでエルリーゼの好感度が50未満だと手で風を送り込まれるという塩対応をされますが、50以上にする事でキスのご褒美がもらえます。
だからここで死んでおく必要があったんですね』
実況主が何か好き勝手言っているが、好感度高くてもやらねーよ!?
俺は一体何を見せられているんだ……これは本当に俺か?
メス堕ちしたパラレルワールドでも見せられているのか? 何の拷問だそれ。
画面の中の光景が信じられずに俺があばばばしていると、
「で、お前これ実際にやったの?」
『やるわけね……ないでしょう! 別に口を合わせる必要なんてないのに何でわざわざ人工呼吸を選ぶ必要があるんですか!』
あっぶね、伊集院さんがいるのに素が出そうになった。
ともかく、これはやらない。絶対やらない。
いやそりゃね? それしか方法がないなら……まあ、やるよ?
心肺蘇生は時間が大事って一番言われてる事だし、やらなきゃいけない場面で『男だからやだ!』なんて言ってる暇はない。
だがそれは、それしか手段がない時の話だ。
他に方法があるのに、わざわざ選ぶ理由がない。
「だよなあ……となると、これはやはり本来は存在しない『ゲームを盛り上げる為に』作られた捏造シーンって線が有力か。
お前のそっちでの行動でゲームの内容が変わってるって前提も大分怪しくなってきたな。
……まあ、お前が単純にテンパって自分の出来る事を忘れてやらかした可能性もまたゼロじゃないが」
今まではこのゲームに表示されるものは、実際に向こうであった事、あるいはあったかもしれない事だとずっと思っていた。
だがここにきて明らかな偽物のシーンを見せられたのだ。
こうなると今までの前提そのものが揺らいでしまう。
だが分かるのはここまでだ。
この先の事を考えるには材料が足りていない。
つまりは……やはり、先に進むにはシナリオ担当なり預言者なり、新しい推理材料を加えなきゃならないわけだ。
冬季休暇中に向こうでやる事は決まったな。
そろそろ、向こうで目を覚ます気配が近付いてきたし今回はここまでか。
そんじゃあ
こっちも、それなりに頑張ってやるからさ。
それとそのシーンは忘れろ。いいな?
◇
というわけで、目的も出来たところで気分サッパリ起床しました、中身クソの偽聖女エルリーゼです。
何か『向こう』から戻ると少しハイテンションになるな。
最高にハイ! というか気分爽快というか……無理に説明するなら今まで自覚していなかった眠気が覚めたかのような気分だ。
それに明らかに力も漲って、魔力も上昇している。
何かよくわからんがパワーアップ! 絶好調!
……いやごめん、本当は分かってる。
多分あっちの俺からまた魂パクったからその分好調になったんだと思う。
だから俺が好調になった分だけ、あっちの俺は更に衰弱してると思う。
これもう、あんま向こうに行かない方がいいかもしれないな。
といっても、俺の意思で行ってるわけじゃないからどうしようもないんだが。
まあ考えても仕方ない。
とりあえず、これからの事を考えよう。
今は学園も冬季休暇に入り、これが明ければいよいよ第三期に入って物語も終わりへ近付く。
ここから先は魔女との決戦までジェットコースターだ。
ただしそれは俺の知る本来のゲームでの話。
本来ならばどのルートでもこの時点でエルリーゼは退場しており、エテルナが真聖女である事が発覚している。
そこからエテルナが真聖女の使命に恐怖したり、ベルネルが励ました後に決意したりと色々あって、ルートや攻略中のヒロインによってイベントが分岐する。
が、ご存知の通り俺は退場していないし、エテルナも自分が真聖女だという事を知らない。
なのでこの第三期は今まで以上に俺の知識が当てにならないだろう。
それでも一応整理はしよう。
まず、魔女戦の前にいくつかイベントがあるが大きなイベントとしては学園防衛戦がある。
これは魔女が呼び寄せた魔物の大群が途中にあるルティン王国を滅ぼして学園に進撃し、それを生徒や教師達で迎え撃ってモブに大勢の死者が出るというものだ。
最終的にはエテルナが聖女の力に覚醒して、ベルネル達と一緒に敵の大将……以前に俺がボコボコにして苛めた鬼みたいなモンキーを倒して、それで統制を失った魔物達が散り散りに逃げて学園が救われる。
しかしこの世界ではそのイベントが起こる前に俺が先回りして魔物の大群をサンドバッグにしてやったので、これはもうないと考えていい。
次に、変態クソ眼鏡によるヒロインストーキング&監禁イベント。
これは必ずその時に最も好感度の高いヒロインに対して行われるが、アレクシアルートに限り時期が少しズレて、アレクシアが仲間になってから発生する。
そして魔女戦。
魔女戦は大きく分けると第三期中盤で発生する時と終盤で発生するパターン。それからそもそも魔女戦そのものが起こらないパターンの三つがある。
戦いすらしないルートは、エテルナの会話イベントを進めて聖女として決意させた上で別のヒロインを選び、更にエテルナの好感度が一定値以下かつレベルが40以上の場合に起こる。
聖女として決意を固めたエテルナは、ベルネルへの想いが実らない事を知りつつもベルネルの幸せの為に魔女を倒す事を決意して騎士達と共に戦いに赴く。
ちなみにこの時、選択肢とレイラの好感度次第ではレイラが死ぬ。
勿論このルートはエテルナが魔女化してラスボスだ。
次に中盤で戦うパターン。
実はこれが一番多く、意外と魔女は最後まで残らない。
大体途中で、まだ日数が残っているのに最終戦っぽい雰囲気を出しながら魔女との戦いに突入して倒す事になる。
これは主にエテルナルート以外で発生し、魔女を倒した後はイベントでエテルナが止めを刺して一度はハッピーエンドのような流れになるのだが……。
ところがこの後に、エルリーゼの負の遺産が発動して聖女に恨みを持つ馬鹿な輩がエルリーゼとエテルナの区別も付けずにエテルナの生まれ故郷を襲撃して両親や友達を皆殺しにしてしまう。
これは、エルリーゼからエテルナへ聖女の座が移行して間もない事で周知が遅れたというのもあったし、そもそも襲撃した馬鹿は聖女の名前なんか知りもしなかった。
ただの農民であったその馬鹿は、ただ『聖女は許せない』という方向性を間違えた義憤でエルリーゼの働いた悪事をエテルナの悪事と誤解したまま『あの村は聖女の生まれ故郷だ』という情報を得てしまい、最悪の馬鹿をやらかす。
結果、エテルナは人類に絶望してそいつを殺し、後戻り出来なくなる。
まあ、魔女倒した時点でどの道手遅れなのだが、たった五年の平穏すらエテルナは持てなかったのだ。
ちなみにアレクシアルートのみ魔女が死なずにのうのうと味方入りする。
勿論参入と同時に装備を全部奪って資金に変えた。
終盤で戦うのはエテルナルートのみ。
このルートではエテルナ関連のイベントが増え、決戦時期が終盤までシフトする。
そして魔女を倒し、エテルナもベルネルの腕の中で死ぬ。
他の結末に比べると幸せな最期だが、どのみち報われない事に変わりはない。
何この子不遇。
もうマジで画面に映さないのが一番幸せなんじゃないかなこれ。
で、まあ……結論から言うとだ。やっぱりこれらの知識は当てにならない。
だって基本的にこれらはエテルナが聖女と発覚している事をトリガーにして発動するイベントだ。
魔物の大群は既にボコボコにしたし、まだフラグが生き残ってそうなのは変態クソ眼鏡による監禁イベントくらいだろう。
なのでここから先は今まで以上に暗闇の中を突き進む事になる。
マジでこの先どうなるか、ちょっと分からない。
けどまあ、何とかしましょうかね。何よりも俺自身の気分の為に。
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