第二十九話 聖女の行く末(後半)

「…………」


 あれ? 黙っちゃった?

 なになに、図星? 図星?

 ほれ何か言い返してみろよおっさん。


「その通りかもしれん……確かに私は、アレクシア様がアレクシア様でなくなるくらいならば……誰かに、止めて欲しいと願っていた」


 やったね、大当たり。

 俺ってもしかして探偵の才能あるんじゃね?

 身体は聖女、頭脳はクソ! その名は……いや、頭脳クソじゃ駄目だろ。

 無理じゃん、探偵。


「魔女として悪事を積み重ねるくらいならば……聖女に討たれる方がまだ幸せなのではないかと……確かに、心のどこかで思っていた。

ああ、認めよう。きっと私は、アレクシア様を次の聖女に止めて欲しかったんだ」


 お、素直になったな。

 そんじゃ、俺等の邪魔はもうするなよな。

 俺等は魔女を倒したい、お前は魔女を倒して救って欲しい。

 利害は一致しているわけだし、もう戦う意味はないな。


「ならば……」

「だが!」


 うお、いきなり大声出すな。びっくりするだろ。


「だが、駄目だ。お前だけは駄目だ!

確かに聖女に討たれる方がアレクシア様は救われるかもしれない。

だが! お前だけにはアレクシア様を討たせるわけにはいかない!」


 えー、何よそれ……。

 他の奴はいいけどお前だけ駄目って、普通に傷付くんだけど。

 何? 差別? 俺だけハブ?

 そういうの、よくないと俺は思うなー。


「裏切られはしたが……それでも、俺とてかつては世界を守る事を誇りにしていた騎士だ。

だから……必ず世界が滅びると分かっている道に進ませる事は出来ない。

聖女エルリーゼ……お前は確かに史上最高の聖女なのだろう。俺にとっての最高の聖女はアレクシア様以外にありえないが……客観的に見て、お前がそう評価されるだけの存在である事は十分分かっている」


 言いながら、折れた剣を構えた。

 そして雷の魔法が折れた部分を補い、雷の剣となる。

 なにそれカッケェ。

 それで切れるのかとか無粋な突っ込みは思い浮かぶけど、とりあえずカッケェ。


「だからこそ、お前だけはアレクシア様を倒してはならない!

お前がアレクシア様を倒して次の魔女になってしまえば……もう誰にも止められない!

誰も勝てない! 倒せない! 次の聖女も……その次も!

絶対に勝てない無敵の魔女が生まれ、そして人類は滅ぼされる……。

今のお前にその気がなくとも、必ずそうなる! 魔女になるとは、そういう事だ!

お前だけは、絶対に魔女になってはいけない存在なんだ!」


 なるほどねえ、と俺は納得した。

 まあこいつ視点だとそうなるか。

 こいつ、俺が偽物って事知らないもんな。

 斬りかかってきた学園長の剣を素手で掴んで止め、そして胸に手を当てた。

 はい魔法ドーン。

 学園長は派手に吹っ飛び、壁に叩き付けられた。


「が……は……ッ。

強……すぎる……! だ、駄目だ……これでは本当に……世界が滅ぶぞ……」


 壁にもたれて座り込んだ学園長だが、彼はこの後きっと捕まって牢屋行きだろう。

 そう思うと、少しばかり哀れに思えてきた。

 どうせ捕まって退場する奴だし、少しくらいなら救いをやってもいいかな?

 まあおっさんに抱き着く趣味はないのでアイナとかみたいな救い方はしないけど。


「滅びませんよ。私は魔女になりませんから」

「愚か者め……そういう問題ではないのだ……。

お前がどれだけ、そう思っても……平和を望む心の持ち主でも……。

聖女である以上、魔女を倒せば魔女になる……そして、魔女になればどれだけ耐えても、最後には…………。

アレクシア様も、そうだった……」


 息も絶え絶えに言いながら、それでも気絶しない。

 何だかんだでこのおっさんも騎士だったって事だろう。

 これだけの差を見せ付けられても、世界の滅びだけは必死で避けようとしているのだ。

 俺はそんなおっさんに近付き、そして耳元でカミングアウトをぶちかましてやった。


「本物の聖女は、あそこにいるエテルナさんです。

私は取り違えられてしまっただけの、偽聖女なんですよ。これ、皆には秘密にして下さいね」

「なっ!?」


 これには流石に仰天したようで、ディアスは俺をまじまじと見た。


「ま、まさか……そんな事が……。

信じられん……! 歴代最高の聖女とまで言われたお前がそんな……まさか……!」


 どうやらまだ疑っているようなので、俺は先程雷ソードを受け止めた掌をコッソリ見せてやった。

 魔力ガードはしていたが、あれはなかなかの威力だった。

 俺があえて加減してたってのもあるが、少しばかり掌に火傷を負っちまった。

 聖女が自傷か、魔女以外の力で傷を負う……この意味を、こいつなら分かるだろう。


「聖女の力抜きでも魔女を倒す方法も既に見付けています。

勿論私がアレクシア様を倒しても、私が魔女になる事はありません。だって私、偽物ですから」


 そう言って渾身の聖女スマイルで笑ってやった。

 するとディアスは放心したように俺を見詰め、やがて大声で笑い始めた。


「ふ、ふははは……ふはははははははッ!!

これは驚いた……驚いたぞエルリーゼ!

まさか、こんな事があろうとは!

お前はとんでもない奴だ! 本当に大した奴だ!

確かにこれならば変わるかもしれん……続いてきた魔女と聖女の循環が!」


 心底嬉しそうにディアスは笑い、そして完全に力を抜いたように崩れ落ちた。

 おい、今倒れるな。

 お前の耳元で話す為に俺は今お前の前に座ってるんだから、お前が倒れたら俺の膝の上に頭が落ちるだろ。

 おいやめろ、おっさんに膝枕する趣味とかねーぞ。どけ、おっさん。


「……一つ、頼んでいいか?」

「何ですか?」


 分かった、頼みを俺が聞ける範囲でなら聞いてやる。だからどけ。


「…………もし可能ならば、アレクシア様の事を、救ってやってくれないか。

そんな事は不可能だと分かっているが……お前なら、何となく出来そうな気がしてしまうんだ……」


 そう言い、おっさんは気絶した……俺の膝に頭を乗せたまま……。

 おいどけって。重いだろう。

 しかも最後に何か買い被り&余計な頼みまで残しやがった。

 魔女を助けてくれって、何で俺がそんな事せにゃならんのや。

 第一、そんな都合のいい方法なんて……。


 ……まあ、あるんだけどさ……。

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