第十五話 錯乱(後半)
変態クソ眼鏡の先導で俺達が辿り着いたのは学園の外にある崖であった。
下では海が荒れ狂っており、控えめに言ってこんな所に学園建てる奴はおかしいと思う。
いや、正確に言えば崖の上に建てられてるわけじゃなくて学園自体は高台にあるってだけで、そこから少し進んだ場所が崖っていうだけだ。
そして今にも落ちそうな崖の端……落下防止の柵を越えた先にエテルナが立っていた。
マジで何してんのあの子。
明らかにやばい位置に立っているエテルナへ、ベルネルが慌てたように叫ぶ。
「エテルナ! そんな所で何をしてるんだ!」
ホンマにね。
「来ないで!」
エテルナは叫び、崖の端に片足をかけた。
やばいな。後少しでも近づいたら飛び降りそうだ。
まあエテルナは飛び降りても死なないんだけどな。
なのでここは落ち着いて、何故エテルナがこんなわけのわからん行動をしているかを聞くとしよう。
「私は、消えないと駄目なの!」
「何を言ってるんだ!?」
エテルナとベルネルの痴話喧嘩を聞きながら、考える。
こんな事になるフラグどこにあった?
一応俺は全ルート制覇して、攻略ページとかも見ているが、こんなイベントは見た事がない。
ただこのゲーム……とにかく小さいイベントとかがあちこちに隠れてて、発売から四年経った今でもたまに新しいイベントとかが発見される事があるからなあ。
攻略本もあるにはあるが、イマイチ微妙だし。
何でこうなった? やっぱベルネルが筋トレばっかして放置してたからこうなったんじゃないかこれ?
「全部……全部、私のせいなの!
ファラ先生がおかしくなったのも……今回の騒動だって……!
私がいたから……!」
んん?
何かおかしな事を言い出したぞ。
ファラさんの暴走と今回の騒動が自分のせい?
ごめん意味わかんない。何でその思考になったのかサッパリ理解出来ん。
ファラさんは魔女に操られたせいだし、それは俺がハッキリ言ったはず。
魔物の暴走だって魔女のせいだ。エテルナは何の関係もない。
とりま、まずは落ち着かせようか。
見て分かるほどに彼女はSA☆KU☆RA☆Nしている。
「落ち着いて下さい。貴女は今、錯乱しています。
まずはこちらに来て、それから……」
「来ないでッ!」
何とかなだめようとするが、何故か逆に興奮してしまった。
この反応は……もしかして俺が原因か?
やっぱ俺の視線が不愉快すぎた!? 尻をガン見するのは流石に駄目だったか。
「隠さないで下さい、エルリーゼ様……。
私、もう全部分かってるんです……」
ギクゥ!
ま、不味い……俺が偽聖女ってバレた!?
中身が聳え立つクソの山ってバレた!?
いやまあ、そらバレるわな。だってエテルナが本物の聖女なんだから、怪我するべき時にしなかったりして、それで『本物私じゃん! アイツ偽物じゃん!』って気付くよね。
それともやっぱり尻を見てた方か?
ち、ちちちちちちゃうねん!
あれはちょっとその……魔が差したというか……。
た、ただ、いいケツだな~って思って……。
あ、あわ、あわわわわわ……。
いやでも待て。
それで何で自殺しようとしてんの?
飛び降りても死なないから私が本物の聖女でそいつは偽物よ! とでも言うつもりかな。
ふっ……愚かな。
やめてくれエテルナ。その技は俺に効く。
「何を言っているか分かりません。
とにかくまずは、一度落ち着いて……」
「ええ、そうでしょう……貴女には私の気持ちなんて絶対わからない……」
ぐむ……確かに分からんかもしれん。
向こうにしてみれば自分が聖女なのに、こんな偽物が聖女名乗っているわけだからな……。
いわば成り代わられた被害者で、俺は加害者だ。
だが成り代わりは俺のせいじゃない。俺達が赤子の時に取り違えた預言者とかいうアホがいて、全部そいつのせいなんだ。
だから俺は悪くねえ。俺は悪くねえ!
……とか思っていたが、次の瞬間、とんでもない爆弾発言が彼女の口から飛び出した。
「――聖女である貴女に、魔女である私の気持ちなんて分かるわけがない!」
ほうほうなるほど、君が魔女……。
そいつは驚きだ。しかし俺も好んで偽聖女などしているわけでは……。
……。
うん? 魔女? 聖女じゃなくて?
今この子、自分を魔女って言ったの?
………………。
ごめん。どういう事?
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