記憶喪失屋
ぺんなす
第1話 記憶と干渉できない世界
誰にでも、忘れたい記憶がある。
消し去りたい記憶がある。
消すことができるなら消したいと誰もが思うことだろう。
また…消したいと、忘れたいと、願う声が聞こえる…。
忘れたい…。思い出したくない…。
消し去りたい…こんな記憶…。
「その願い…叶えて差し上げます」
「えっ…?」
「もし…本当に消したいのなら放課後、――に来てください。あなたの願い必ず叶えます。お待ちしております」
「やはり、来てくださいましたか」
「本当に…私の願い、記憶を消したいという願いが叶うのなら…って思って来ました。本当に、本当に叶えてくれるんですか…?」
「えぇ。もちろんです。どのような記憶を消してほしいのか教えていただけますか?たとえば…誰々という友達の記憶…とかそういった表現で構いませんので」
「えっと…それじゃあ――。」
「かしこまりました。そのご依頼お受けいたします。では、目を瞑ってください」
「はい…わかりました…」
「あれ?私なんでこんなところに…ま、どうでもいいや」
記憶が消えれば、すべてが変わる。
過去に縛られて記憶にとらわれて苦しんでいたことも、何もかも
すべてを忘れ、心を一新することができる。
「アオ…これ…さっきの人の結晶…」
「ありがとう。いつもわざわざ分けさせてごめんね」
「ううん…平気…大丈夫…」
「じゃあ、あの人のところ行ってくるね」
「うん…。いってらっしゃい…」
「行ってきます」
「こんにちは」
「また来たのかい。最近毎日来てるけど、あの子は…大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ」
俺はそう言いながら、彼に結晶を渡した。
「今日は本当に多いね…みな、忘れたいことが多いんだね…私にはよく分からなことだ…。君は、毎日人の苦しみを聞いて辛くならないのかい?」
「別になりませんよ。俺には関係ないですし。赤の他人なので」
「そうかい…。私は君がここに来るたびに君たち二人のことが気になるんだ。君たちは私に想像もできないようなことをたくさん抱えて…それがこの結晶になっているんじゃないか…とかね。もちろん、そうじゃないことはわかっているけれどね」
「俺たちは平気ですよ。いつも、俺のお願いを聞いてくれてありがとうございます」
「君の本心はきっと誰も知ることができないのだろうね。そして、それはきっとあの子も同じなんだろね」
そう言いながら彼は結晶を磨き宝石のように輝いている状態を作り上げた。
「さて、今日はこのくらいにしておこう。今日も持ってきてくれてありがとうね。それにしてもどんな宝石よりも磨けば美しく輝くのが人の記憶というのは不思議なものだね…」
「そうですね」
「あまり、無理をして生きるのはだめだよ。君だけじゃなくてあの子もね」
「大丈夫ですよ。きぃも、俺も」
「君たち二人は似た者同士だ。君たちの大丈夫の言葉の裏には、いったいどんな言葉、感情が隠れているのか…。私には分からないね…。」
「君はあの子の大丈夫の言葉をどれほど信じているのかね?」
「俺は…きぃのすべてを信じてますよ。俺には、きぃしかいないから…」
この子たちにはきっと誰も干渉できないんだろうね。
そして誰にもこの子たちの苦しみを理解することはできなんだろね。
私は、この二人を見守ることしかできないのだろう…。
ただ、私が結晶を磨くことであの子たちが生きられるのなら、私はそれでいいと思った。
きっと誰もあの子たちを救うことはできない。どれほど心配しても気にかけてもあの子たちは二人だけの世界を生きている。二人の世界には誰も干渉できないし、したらいけないんだ。
そう私は彼らに出会った時から考えていた。
彼らは突然やってきた。
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