第39話『リルルの楽しい戦闘実験』
ここは5階層のフロアボス部屋である。
「フィジカル・ブースト!」
リルルが叫ぶ。
実は特に叫ばなくても魔力操作の効果は発揮できる。
あくまで気持ち良さの問題だ。
スカッとした方が良いに決まっている。
せっかくダンジョンに潜るなら楽しいほうが良いと俺は思う。
ちなみに全てのネーミングはリルルのセンスで付けられている。
カッコいいのが好きみたいなのだ。
おっ、リルルが加速を付けて跳び上がり、
ジャンプキックを繰り出していたぞ。
靴底は基礎魔力操作の炎属性付与により
真紅に輝いている。
今までとは桁違いの熱量だな。
さすがは、新装備だ。
「クリムゾン・キック!」
リルルの炎属性をまとった強烈な飛び蹴りが
フロアボスのクリオネ・ロードの魔核に直撃する。
靴底が魔核を破壊するやいなや、
クリオネ・ロードさん大爆散という感じである。
魔核は完全に砕かれ、活動停止。
クリオネ・ロードの本領発揮となる捕食形態の
第二形態に移行するスキもなく完全に消滅。
……いやー凄い威力だな、新装備。
おそろしく速い飛び蹴り、オレでなきゃ見逃しちゃうね。
……まぁ、実際に主にガン見していたのはホットパンツではあるが。
キレイな花火だ!
だが、それよりもちょっと"クリムゾン"と口にしながら、
ジャンプキックを放った時は別の意味で心配した。
リルルが『クリムゾン・ス○ッシュ』とか言わなかった事に安堵した。
その時は心苦しいが技名の変更を打診しなければいけなかっただろう。
ちなみに、本当にどうでも良い情報なのだが、
俺は歴代ライダーの技の中ではアクセルフォーム状態の
連続クリムゾン・○マッシュが一番好きな技だ。
空中に無数の真紅の円錐が浮かぶ演出も良い。
それにあの技は強いだけではなく、
たった"10秒"しか動けないという制約がある事がより
カッコよさを増していると思うのだ。
あの円錐状のレーザーポインター最高や。
ちなみに、ライダーというのはバイクに乗っている
人全般の事を指す一般的な言葉であり特に問題ないはずだ。
何が問題ないのか俺もよく分からないが、問題ないはずなのだ。
「…レ…レイっ、どうしたのですかぼーっとして?」
「今、リルルの技を分析していた。鍛冶師の言っていた、"魔力伝導率15倍"の秘密が分かった。彼の言っていた事は、誇張表現ではなく事実だった」
俺は靴底がクリオネ・ロードに直撃する瞬間を凝視していた。
さすがは"邪神の瞳"の4Kの眼球。動体視力も尋常じゃなく向上している。
その時に、なぜ魔力伝導率が15倍に跳ね上がるのか理解したのだ。
理屈は単純だった。
「教えてくれますか?」
「靴に魔力を込めると魔力出力量が普段の10倍以上に跳ね上がっただろ?」
「はい……不思議でした。何らかの特性付与がされているのでしょうか?」
「いや、そういった特殊な細工は一切されていない」
「そうなのですか? それではこの魔力出力量は一体……っ」
「クリオネ・ロードに直撃する時の靴底見て分かった。靴底の凸状になっている部分が魔力超伝導物質、ミスリルとアダマンタイトの合金を使っているみたいなんだ。だからこの靴底の凸状の部分から超出力の魔力が出口となって放出される」
「なるほど。ミスリルを使っているから強いのですねっ!」
「さらに、靴底の凹状の部分、つまりそれ以外の部分は反魔法物質のオリハルコンとアダマンタイトの合金が使われているみたいなんだ。これによって、魔力の出口を狭めることに成功している。この組み合わせで出力を向上させているようなんだ」
「えーっと。ちょっとだけ難しいですね。でもレイが賢いと思いましたっ! さすがはレイです。毎日、夜間に魔導学院で一生懸命ノートにメモしている成果ですねっ! 勉強の復習もしていて、あたしレイが偉いと思いますっ!!」
わかろうとしてくれただけで偉い、さすがリルル!
そして、俺が復習してくれるのも見ていてくれたのだな。泣けるぜ。
俺も一度で理解できないから、こっそりノート読み直しているんだよな。
「まあ。リルルは単純に強くなったと思えばいいさ。リルルの"クリムゾン・キック"は最強という事だ!」
「はいっ! 最強ですっ! いっぱい新技を準備したので練習しまくりますっ!」
魔力伝導率15倍の秘密だが、地球風の言い方で説明するなら、
基本的には蛇口のホースの出口を半分指でふさぐと、
同じ水量でも強い出力で水が出てくる。
その理屈を応用している感じだな。
あの鍛冶師、なかなかのアイディアマンだな。
特許とかあるなら、それだけで相当儲けられそうなアイディアだ。
ミスリルの魔力超伝導は素晴らしい特質だが魔力が散逸し過ぎる面もある。
それを反魔法物質のオリハルコンによって、魔力の出口をあえて限定することで、
より魔力を散逸させずに高い出力で魔力を出せるようにしているわけだ。
今後、あの鍛冶師が作る新しい武器にも応用されそうだな。
構造自体は単純なのに効果は大きいからな。
でも……リルルは、こういう話をするとどうしても眠気が勝るようで、
首をこっくりこっくりさせるので話さないが、
野生の勘的な力が強い子なので使っているうちに
最適な使い勝手を学んでいくだろう。
まあ、俺みたいに魔導学院にリルルと通いながらいまだに魔法を使えない
頭でっかちよりも実戦で使っている本人の方が習得は速いだろう。
魔導学院の夜間部に通うのはリルルと学校に行っている気分になれるのが、
楽しいからこれからも続けたいがお金は稼がんとアカン。
夜間部コースだとイケメンの若い同級生とかに俺がヤキモキしなくて良いのも、
メリットとして大きい。やっぱ、そりゃ……多少は気にしますよ。
器が小さくてすまないが、若いイケメンは俺の精神衛生上よくないっす。
夜間の魔導学院は基本的には大講堂の前列の方で隣りあって二人きりで
授業を聞いているだけだから遊びに言っている感もあって気楽で楽しいんだよな。
カルチャーセンターとかのイメージと近いかもしれない。
インテリハゲの話も結構面白いしな。
まあ、リルルにとっては催眠魔法のようだが。
「ところで、新しい装備の試験運用とアイテム回収もかねて、今日からこの5階層を一日、20周はしたいのだけど、リルルの体調的には問題ないかな?」
「20周ならむしろ楽すぎかもです。頑張れば30周は夕方までに回れますね」
偉いなあ。リルルは成長しておりますぞ。
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