第36話『衛兵さんからのヒーローインタビュー』

 その後の話をしよう。


 明朝、俺の手書きのメモを読んだ衛兵たちがアジトにきて、

 地下室の檻に閉じ込められた少女たちを確保した。


 衛兵さんが来るまでには十分な時間があったので、

 "アリアドネの糸"、"壊れた甲羅の盾"、アジトの周りに

 埋めていた"毒玉"はすべて回収しておいた。


 俺がここで争った痕跡を残して称賛されたとしても、

 良いことなんて一つも無いからな。


 少女たちの目、耳、鼻といった器官は潰されていたため、

 彼女たちも俺が何をしたのかは理解してはいない。


 超高品質な回復薬や解毒剤をくれて応急処置を

 施した程度の男という認識だろう。

 それで良い。



「レイさん、大丈夫でしたか? 怪我は?」



「屋外でも聞こえるような大きな罵声が飛び交っていて、怖くて動けなかったのですが、しばらくしたら静かになりました。その後、中に侵入したらこの有様でした」



「ゴミのようなダークエルフどもの事だ。どーせ、報酬金の取り分とかその辺りでの揉めたってところだろうね。内ゲバですよ。それにしてもさすがは"運最強の男"、レイ。ラッキーボーイですね。ははっ」



 もちろん衛兵も運の値がこのような、

 都合の良いことが起こる"奇跡"とは関係しない事は知っている。

 

 運の値はドロップアイテムの確率等に影響する程度の能力と理解した上で、

 親しみを込めて俺をイジっているだけだ。



「アジトの中に入ったら死体の山でした……。アジトの通路の先に地下通路の入り口が開けっ放しになっていたんで、恐る恐る階段を降り、奥の部屋に着いたら、大怪我をした女性たちが檻に閉じ込められていました。俺が出来る事は回復薬を使った治療だったので、出来る限りの応急処置を施しました」



「いやー。レイさん、アンタ偉いよ度胸もある。俺さ、あの地下室みた時は気失いそうになったからね。それにしても戸締まりもできないとはマヌケな野郎だったな」



「多少緊張はしました。ですが、俺も冒険者ですから。この程度のことは造作も無いです。まあっ、とはいっても俺にできたのは応急処置くらいなんですが。はは」



「レイさんもなかなか男前な事いうじゃん。やっぱり冒険者なんだな! かっこいいぞ! それに、応急処置といっても完璧以上に完璧な処置だったよ。誇って良い。さては、あのおばあちゃんの道具屋の高品質な回復薬を買いまくっていたな?」



「名推理ですね。バレましたか。俺、慎重派なんで回復薬は常に大量に持ち歩いているんです。でも大量に買いまくった回復薬が役に立ったんで、良かったなって」



「俺としちゃあ、レイが殺さされてなくて良かったよ。無理して一人で潜入して殺されてないかとヒヤヒヤしてたからな」



「ははっ……さすがに、俺もそこまで無謀じゃありませんよ」



「生きていて嬉しいぞ。なんというか、お前がいなくなると、ちょっとさみしい。ほら、お前ってなんかちょっとこう、癒やし系的なところあるからな」



 ひさびさに衛兵さんから『運最強の男』のイジリをされた。

 まあ、親しみを込めてだから悪い気はしない。


 バカにしてるのではなくちょっと距離感の近い間柄のブラックジョークだ。

 俺が転生して王都に来てから苦労していた姿をみているから、

 衛兵さんも運の値が万能だなんて思っちゃいない。



 以上が俺に対するヒーローインタビューである。



 俺は衛兵と王都に帰る道すがら『号外に俺の名前を載せないように』

 と繰り返し強くお願いしておいた。

 ダークエルフの残党が居たとしたら必ず目をつける可能性があるからだ。

 

 後日、記事を確認したのだが、確かに俺の名前はどこにも無かった。

 約束はきちんと守ってくれたようだ。

 

 記事によるとダークエルフたちが金銭を巡っての殺し合いと書かれていた。

 まあ、あの惨状を見たらそうとしか理解できないだろう。

 



  ◇  ◇  ◇




 さて、囚われた少女たちに負わされた身体の大怪我、欠損の件だ。

 結論から言おう。リルルの血液と回復薬☆の力で完治した。

 文字通り、



 俺は一度、ダークエルフの自爆によって全身を爆炎で焼かれ、

 さらに全身を鉄片でハリネズミにされた事がある。


 "不死王のマント"でギリギリで踏みとどまったが、

 あのままだったら大量出血と火傷による

 スリップダメージで死んでいただろう。



 命を救ったのは""させたからだ。



 現に俺は爆薬で焼かれ鉄片で貫かれた状態から五体満足で復活した。

 当時は、回復薬☆の効果かと思ったが残念ながら回復薬☆には、

 切断された四肢を回復させるような効果はない。



「リルル。後生のお願いだ! このポーションの中にお前のツバを吐いてくれ!」



「ふえぇ……? レ……っレイ、急にっ、どうしちゃったのですかっ?」


 

 前提条件を話さないでの相談だったのでリルルは驚いていた。 

 俺もちょっと急ぎ対応が必要だったのでテンパっていたのかもしれない。


 俺はリルルに緊急治療が必要な人達が大勢いる事を伝えた。

 そのために、リルルの力が必要であると。


 そして、その子達の命を救うためにはリルルの体液が必要であると伝えた。

 回復薬とリルルの体液が混じり合うと、劇的な効果をもたらす回復薬になるのは

 おそらくリルルの体内に取り込まれた世界樹の葉の効果だろう。



「あの、レイ、事情はよく分かりました。確かに急ぎの対応が必要ですね。でも、あたしの体液が必要なら、唾液の……代わりにあたしの血液じゃ駄目ですかっ?」



「血っ? 効果は大丈夫だろうけど、痛いぞ? 唾液は痛くないし、出し放題だ」



「でも、唾液ですと雑菌がなかで繁殖して飲んだ子達が感染症とかの病気になる可能性があると、レイが教えてくれました……。それに、あたしも妙な罪悪感が……」



 出し放題という言い方もアレかと思ったが、

 俺も若干テンパっていたのでちょっと微妙な言い方になってしまった。

 雑菌とか、感染症のこととか頭から消えてたな。うっかりだ。



「でも、結構な数のポーションに血液を注がなきゃいけないから大変だぞ?」



「いえいえ。あたしも冒険者なので大丈夫です。……人差し指に針でチクッと刺すを程度なら痛くありません。あたし、そのくらいの痛みは我慢できますっ」



「リルルは偉いな」


 そしてかわいいぞ。



 俺はリルルの頭をワシワシと思い切り撫でた。


 ひとしきり撫でたあとに金色の一房の髪を人差し指でクルリと回して楽しむ。

 アルデンテのパスタをクルリと巻きつけるような感じだ。


 俺はリルルの髪を触るのが好きだ。


 クルリクルリと指を回して楽しんでいたら、数本プチッと抜けた。

 聞こえない程度の小さな声で『っぁーぃ』と言っていたので、謝りました。



 すまんな、リルル。

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