不遇職【錬金術師】が【運極振り】でダンジョン潜って一儲け！

第2話『ノーライフキング先生をハメてみた』

「……暗いな」

　ダンジョンの中は整然としており、

　床は大理石で覆われており、

　その構造はどことなく王都にある

　教会を思わせるような作りになっていた。

　全体的にススけた感じやカビ臭さからかなりの年季を感じさせるが、元は相当に格式のある建物であったことが分かる。

　それが何らかの理由でダンジョン化しているということは、中にこのダンジョンを支配するダンジョンボスが存在することを意味していた。

　ぱっと見た感じは、普通の建物であってもここはダンジョンである。

　しっかりモンスターはおり、

　侵入者である俺を見つけるなり襲い掛かってきた。

「これでもくらえっ！」

　俺はサイドポシェットから毒玉を取り出し、

　目の前の法衣を来たゾンビに向かって全力で投げつける。

　【毒玉】の表面は殻のようなもので覆われており、

　ぱっと見た感じは野球ボールと同じ大きさの泥ダンゴのような形状をしている。

　この毒玉の中には致死性の薬品が入っており、モンスターの体にぶつかってボールが破裂すると即座に中から毒液が巻き散らされる。

　このゴブリンのドロップアイテム毒玉は、

　ゾンビなどのいわゆるアンデットモンスターにも普通にダメージが入る。

　少なくとも俺が知る限り毒玉が効かないのは、

　ゴースト系のモンスターくらいのものである。

　もう既に十体以上のモンスターに毒玉をぶつけていた。

　あとは、後ろに少しずつ後退しながら、

　パリィしまくれば相手は勝手に死ぬ。

「っと……ここの敵はなかなか体力が多いな。毒で死ぬまでに時間がかかるからパリィが追いつかない」

　俺は右手の盾のパリィで受け流しつつ、

　左手でサイドポシェットから回復薬を取り出し、

　前歯で回復薬のフタを開けグイっと一気飲みする。

　法衣のような者をまとったゾンビ相手に

　しばらく無心でパリィ祭りをしていると、

　いつのまにか俺の周りには死体の山が出来上がっていた。

　そして、死体の山はしばらくすると消滅。

　ドロップアイテムへと変化する。

「さすがは運極振り。アイテムゲットだぜ！」

　そんな感じでダンジョンを進んでいると、

　突き当りに差し掛かる。

　目の前には巨大な鉄製の扉。

　いわゆるダンジョンボス部屋である。

「ボス部屋か……。ここのモンスターの強さを考えると、戦っても勝ち目は無さそうだな……残念だが引き返すか」

　俺は扉をじっとみると、扉の立て付けが悪いせいか

　鉄の扉と、壁の間に、毒玉を投げつける事ができそうな、

　適度の大きさのちょうど良い穴が見つかった。

「……いや。まさかな。でも、物は試しだ。男は度胸だ」

　穴を覗くといかにもかなり高位な魔術師と思われる

　服をまとったスケルトンが居た。

　究極のアンデット、

　ノーライフキングである。

　俺が穴を覗いていると、ノーライフキングと目があった。

　……まあ、厳密には目は無いのだがな。

「うーん。えいっ！」

　俺が毒玉を投げるとアンデットの王ノーライフキングの顔面に毒玉が直撃。

　悲鳴のような叫び声をあげながら

　入り口の鉄の扉にガツンガツンと体当たりをしている。

　さすが究極のアンデットの攻撃である。

　まるで、地震が起きたかのようにダンジョンが揺れる。

　あまりの衝撃に天井からパラパラと小石が落ちてくるが、

　それでもダンジョンの扉は壊れない。

　ダンジョンの扉は、理不尽なほどに頑丈なのであった。

　ダンジョンのボス部屋は外側、つまり俺側からしか開けられない仕組みになっているせいで、ノーライフキングが扉をこじ開けようとしても全く動かないのであった。

「おっと……。ノーライフキング先生が穴からこっちを覗きこんでいる。怖い顔したって無駄だぞ、くらえっ！」

　毒玉がノーライフキング先生の顔面で炸裂。

　ノーライフキングは痛みのせいか、

　両手で顔を抑え、ヨロヨロと後ろずさる。

　俺は更に追い打ちで毒玉を投げつける。

「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやる！」

　引き続き俺は壁の穴からノーライフキング先生に向かって毒玉を投げ続け、気づいたら毒玉の残弾数はなんと……９９９個を切っていた。

　俺は『ノーライフキング先生、俺が投げる毒玉の当たらない距離とか死角に入れば当たらないのでは？』と思ったが、そこはやはり畜生である。

　究極のアンデットとはいえ、狂ったように暴れまわることしかできないのであった。

「もう俺、３時間もずっと毒玉投げ続けているのだが？」

　さすがは究極のアンデット、ノーライフキングである。

　体力はハンパなく多かった。

　毒玉の重ねがけでゴリゴリ体力は削られているはずだが、

　それでもなかなかに倒れない。

　腰を押さえながら片足を引きずりながら歩いたり、

　ときおり、悲鳴をあげて若干苦しそうにもみえたが、

　きっと気のせいであろう。

　畜生であるモンスターには情け不要である。

　あと、途中から攻撃パターンが若干変わって

　俺が投げ入れる壁の穴から魔法の杖で

　光の槍みたいのを放つようになっていた。

　当たったら即死級のヤバい魔法である。

「さすがは、最強のアンデットの王しぶといな……。途中からたまに壁の穴から反撃で飛んでくる光の槍みたいなのあれくらったらヤバいな」

　俺が毒玉を投げ入れてノーライフキングさんの顔面に当てて、

　その後にノーライフキングさんが光の槍を放って、

　詠唱後のクーリングタイムに俺が毒玉を投げつける。

　基本的には餅つきの要領と同じである。

　俺が杵で餅をつくと、

　ノーライフキング先生が餅をひっくり返して、

　そのひっくり返った餅を杵で叩く。

　非常に牧歌的で、心温まる光景である。

　単調な作業だが、集中力とリズム感が重要である。

　うっかりリズム感がくずれた時に小盾に

　光の槍がかすめたら、それだけで小盾が破壊された。

「あの光の槍はちょっとやっかいだな。くらったら一撃で死ぬだろうな。小盾もぶっ壊されちゃったし。毒玉の在庫もあと８９３個しかない。いい加減そろそろ死んでくれ……。って、もう死んでるのか」

　俺はそんな事を考えながらノーライフキングの光の槍の投擲を回避しつつ毒玉をリズミカルにポンポンと投げていく。

「……あれから更に２時間。もう５時間は投げてるぞ。しぶといな」

　俺の毒玉の残弾はもう７００個を切っている。

　この数は明らかな危険域である。

　これ以上は投資対効果が悪すぎる、

　　帰ろうかと思った瞬間、

　ノーライフキングは突如地面に顔を伏せ、

　雄叫びをあげながら動かなくなった。

　詩的な表現になってしまうが、どことなくノーライフキング先生が泣いているような気がしたのはきっと俺がセンチメンタルな気分になっているからであり、単なる気のせいであろう。

　俺はその後、念のために３０分ほど待ってノーライフキング先生が死んだふりをしていないかを確認。

　その後はきっちり５分刻みで一個ずつ毒玉を投げ入れ、

　１時間経過。

　確実に動かなくなったのを見てから扉を開けて中に踏み入る。

「ノーライフキング先生。良い戦いだった。君のことはずっと忘れない。恨むなら俺じゃなくて明らかに手抜き施工をしたこのダンジョンの設計者を恨んでくれ」

　俺は地面に顔を伏したまま横たわる

　ノーライフキング先生の亡骸を横目に通り過ぎ、

　ボス部屋に置いてあるはずの宝箱を探す。

　ダンジョンボス部屋には必ず、

　宝箱が置いてあるのが特徴である。

　なかにはダンジョンボス部屋内に

　隠し部屋や隠し通路があり、

　見つけるのが大変なことがある。

　今回の場合は、後者である。

「……あのやたら主張の激しい玉座の下とかが怪しいよな」

　俺はRPGで得た知識をもとにノーライフキングの座っていた玉座を、俺の全体重をかけて横にスライドさせる。さすがノーライフキングが座っていた椅子だけあってかなりの重さである。

「ほらね。僕はダンジョンに詳しいのだ」

　ノーライフキングの座っていた、

　巨大な玉座をどかすとすこと

　そこには地下へと続く石の階段があった。

　隠し通路という奴である。

　俺は隠し部屋にあるはずの宝箱を

　取るためにスタスタと地下を降りていくのであった。