不遇職【錬金術師】が【運極振り】でダンジョン潜って一儲け!

くま猫

第1話『運極振りは最高です(怒)』

 俺の名前はレイ、運極振りの転生者だ。


 生前の名前は山田光太郎。

 この世界に転生してから2年目になる。

 プロフェッショナル転生者である。


 俺は昨日偶然見つけた前人未到のダンジョンに足を踏み入れようとしている。

 ギルドに登録のない初物ダンジョンだ。


 冒険者として心がおどるぜ。


 ダンジョンとは何か?

 ダンジョンとは、大地の下に広がる迷宮の事である。


 そこはモンスターが群生する危険地帯である。

 だが、そんな迷宮に挑戦する者はあとをたたない。


 何故ならダンジョンでモンスターがドロップするアイテムや、ダンジョンの奥底に隠された秘宝が俺たちを惹きつけてやまないからである。


 ダンジョンの探索で生計を立てる者を【冒険者】と呼ぶ。今日もどこかのダンジョンで勇者、賢者、戦士、僧侶、魔法使い、盗賊……様々な職業の冒険者がダンジョンに挑戦している。



 ダンジョンに求めるものは人それぞれ異なる。



 ある者は名声を求め、

 またある者は未知の財宝を求め、

 そしてまたある者は日々の食い扶持を

 稼ぐためにダンジョンに潜る。



「ちなみに俺は食い扶持のためだぞ!」



 冒険者にとって初物のダンジョンを見つけることは大きな名誉である。なぜならギルドに報告すればそこに【ダンジョン第一発見者】として名前を登録してもらえるからである。


 また初物のダンジョンでしか手に入らないユニークアイテムを独り占めできるという現実的なメリットもある。



「ちなみに俺はユニークアイテム目当ての冒険者だ」



 俺がこのダンジョンを見つけたのは全くの偶然だった。

 昨日、森のなかでゴブリンの群れから逃げてるときに、コケを踏んでうっかり足を滑らせて谷底に落ちたら、そこにダンジョンの入口があることを見つけたのであったという感じだ。



「さすが、運極振り。ツイてるぜ!……と言いたいところだが」



 まあ、


 冷静に考えれば、

 本当にツイていたらゴブリンの群れに襲われたり、

 食うに困る生活をなんてないわけだが。


 まっ、それはそれ、これはこれだ。


 この世界ではステータスポイントは

 生まれついてのもので、レベルアップ

 などによって成長することはない。


 まさかこのご時世に、

 ドラ○エ方式の成長ではなく

 初期の能力値固定で、以後は

 レベルアップしても能力値は成長しない

 ウ○ザードリィ方式だとは思いもよらんかった。


 ははっ。計算外だったぜ!


 これだから、

 レトロゲーマニア脳な神は困る。


 まぁ、愚痴っても仕方がない。


 転生時に【*いしのなかにいる*】

 にならなかっただけでも運が良かった

 と思うべきか。


 ちなみに、転生2年目のプロフェッショナル転生者、

 つまり俺のステータスはこんな感じである。



 ===================

 名前:レイ

 種族:人族【LV:7】

 職業:錬金術師


 能力値

 【筋力:1】【魔力:1】【速さ:1】

 【耐久:1】【運:10】


 装備

 【冒険者の服】 【革の小盾】【革の小盾】


 加護

 【女神の恩寵】


 特殊

 【世界樹の葉】

 ====================



 ちなみに、この世界での運のステータス

 は地球での運とは若干意味合いが異なる。


 地球での運は漠然としたモノであったが、

 この世界の『運』の数値はモンスターの

 ドロップ率などのランダム要素が絡む

 事柄に良い影響をもたらす能力である。



「実際、俺がモンスターを倒したらかなりの確率でドロップアイテム落とすからな。さすが運にスキルポイントを9も注ぎ込んだ甲斐が有った……アッタワァ……」



 だが、運の数値が高いからといって

 無職していても金に不自由しないとか、

 攻撃されても死なないとか、

 そんなことはなく無職だと餓死するし、

 致命傷を負わされれば普通に死ぬ。

 


 この世界の【運】は筋力や、魔力のように

 狭義の意味の能力と考えた方が正しい。

 俺が想像していたような「運極振りカジノで超ハッピー」

 みたいなことは一切なかったぜっ!



「厳密には運の向上によって、いろいろ細かいご利益はあるみたいだけど、基本的にはドロップアイテムの確率を向上させる能力と考えれば良い感じだ」



 ドロップ率アップの効果は凄い。

 ……確かに凄いのだが、

 

 実はそのメリットを帳消しにするほど、

 【運極振り】立ち回りが難しいのだ。

 どのくらい難しいかと言うと、転生したばかりの時は、「あっ、俺ツンだ」と思ったほどである。



 俺は運【10】以外の能力、

 つまり、筋力、耐久、速さ、魔力といった

 能力が最低値の【1】だったので、

 転生した最初の頃は真っ向勝負で

 スライムにすら苦戦するありさまだったのである。



「――だが、今の俺は昔とは違うぜ!」



 俺が、この世界で安定してモンスターを

 狩れるようになったのはゴブリンを死ぬ気で

 倒した時に得たドロップアイテム【毒玉】を得てからだ。


 運極振りの俺がゴブリンを倒せば必ずドロップアイテムとして毒玉を落とす。

 しかもなんと……5個もだっ!


 俺はゴブリンから入手できる毒玉を大量にアイテムボックスに貯蔵している。


 その毒玉をモンスターに当て、その後ひたすら後退しつつ

 モンスターからの反撃を小盾で【パリィ受け流し】しまくり、

 毒の蓄積ダメージで相手が死ぬまで待つというのが俺の戦闘スタイルだ。


 その立ち回りに欠かせないのが【二盾流】である。


 俺は剣や槍等の武器を持たない。

 その代わりに左右の両肘に小型の円形の

 小盾バックラーを装備するという独自の戦闘スタイルを採用している。


 ビジュアル的には、魔法少女な暁美○むら、

 または聖闘○星矢の紫龍が、小盾を両腕に盾を装備している

 イメージを脳内に思い浮かべてくれれば、

 かなり俺の姿と近いイメージになると思う。



「フッ……。これが俺のみ出した――二盾流だっ!」



 まあ。あんまりかっこよくはないかもしれないけど、

 毒玉投げつけて、じわじわとスリップダメージで倒すのは、

 極振りの俺がこの世界でサバイバルするための現実的な生存戦略なのである。



 毒玉を当ててひたすらパリィしまくって耐える。

 ――相手は死ぬ。



「……最強だ」



 更に二盾流の良さは仮に盾を一個破壊されても、

 最悪一個でなんとかなるという点も素晴らしい。



「中途半端に欲を出して武器を持つと、無意識のうちに攻撃に意識が引っぱられてしまい、防御がおざなりになるのだ。これは経験則からの結論だ。やはりダメージソースは毒のみに絞った方が安全だ」



 紙装甲の俺では耐久頼みの大盾を構えるのも無理だから

 小盾でパリィで弾いて時間稼ぐ必要があるのだ。

 やっぱ命あっての物種ですよ。


 おっと、そんなことを考えている間にスライムが死んでくれたぞ。


 おお……レアドロップ品のスライムの指輪か。

 ドロップアイテムの中でも低確率で出るアイテム。

 普通ならドロップアイテムは薬草なんだよな。



「さすが運極振り! ドロップアイテムゲット!……まあ。普通にスライムの指輪は弱いから売っちゃうんだけどね」



 これで当面の宿賃はなんとかなりそうだ。

 サンキュースライム、君の尊い犠牲は無駄にしない


 そんなわけで、時代は毒玉・小盾・パリィ祭りってなわけですよ。


 さっきだって毒玉投げて、ゆるやかに後退しつつ小盾でスライムのタックルをパリィしまくっていたらノーダメージで勝てたんだよな。



「……まっ、速さが無いから逃げられないし、耐久が無いから大盾を構えて防御特化型のガン盾スタイル出来ないし、筋力ないからそもそも攻撃もできない……この戦術で戦うしかそもそも俺が生き残る方法がないんだけどな」



 おっと……。そうこう言っている内に、

 こんどはあっちのゴブリンがスリップダメージで死んだか。


 毒玉5個ゲット。

 あざっす。

 ゴブリン先輩の【毒玉】めっちゃ役に立ってます。



「ゴブリン先輩の毒玉なきゃ無理ゲーよ。ナイスゴブリン!」



 ちょっとだけ立ち回りが難しいけどねっ!


 おっとそろそろ昨日滑り落ちた谷がある所だ。

 今回は木に縄をくくりつけて安全に降りよう。

 昨日は、谷底に尻から落ちて悶絶したもんな。

 

 俺は、ロープを近場の木にくくりつけ、

 安全を確保した上で、

 昨日見つけたばかりのダンジョンを目指し、谷底へ降りる。


 俺が見つけた谷族のダンジョンは外からはただの大型肉食モンスターの巣にしか見えない。だが、少し中に入ってみたところ明らかにモンスターの巣穴ではないことが分かるような人工的な作りだったのだ。


「まあ。昨日は、谷族への落下ダメージで死にかけていたからダンジョンの中を調査する余力まではなかったんだけどな。だけど今日の俺は準備万全だ!」


 おしっ!

 そんじゃ早速中に入ってみるか。



 俺はダンジョンの扉に手をかけるのであった。

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