ゼロの狂奏曲
@nayru9936
第1話 自殺者は許さない!
都会であっても夜が来れば暗くなる。
それは当たり前の世界ではあるが、都会であれば照明があちこちから当たるので、まだマシだ。
築年数が30年は過ぎたであろう古ぼけた雑居ビルの屋上に、20代と見られる女性が虚ろな視線を下に向けていた。
「死んでやる・・・・」
女性が鉄製の柵に手をかけた時だ。
不意に屋上に繋がる扉が開き、静かな闇夜のその音が響き渡った。
女性が音のする方を見ると、そこにはローティーンと見られる少女が立ち尽くしていた。
少女はゆっくりと近寄ってきたので、女性が言った。
「何か用?子供がこんなところにいたらダメよ」
少女は背後に隠し持っていた剣のようなものを女性に向けた。
「・・・うっさいんだよ。何、偉そうに言ってんの」
可愛らしい顔に似つかわしくない言動に普通であれば引いてしまうのだが、この女性は少し違っていた。
「やっぱり来るんだ。・・・死神さん」
少女は剣を女性の首もとに突きつけて答えた。
「知ってんだったら話が早いや。・・・消滅させるよ」
少女が剣を打ち込もうとすると、女性は身軽にそれを避けると空中に浮いた。
そう、この女性は肉体は滅んだが未練があって現世に止まっている地縛霊だったのだ。
少女は舌舐めずりをしながら、女性を見つめる。
「わかってるよね。自殺で命を絶ったら天界にはいけない。地獄も受け入れないって」
女性は目を見開いた。
「あんたみたいな小娘に何がわかるの!これから何でもできるあんたに!!」
「わかんないよ。・・・いや、わかりたくないね。弱いやつの戯言なんか」
女性の表情が恐ろしい形相になる。
「あんたも道連れにしてやる!覚悟しな」
女性の口元が避けていき、そこには鋭い歯があった。
霊が人間を襲う場合のはいくつか方法があるが、物理的な攻撃を行う場合は噛みつくことがある。
肉体を持たないので空中にも自由に動けるため、普通の人間であれば逃げるのは難しいだろう。
「面白いこと言うね。オバサン」
女性は自我が切れたかのように、少女に向けて突進した。
少女は低く屈んでこの攻撃を避けると、すぐにポケットにある砂のようのものを掴んだ。
「これでも喰らいな!」
それは人間の骨を細かく砕いた遺灰である。
肉体を失った霊は遺灰がかかると人間であった頃の記憶が一瞬戻り、動きを停止してしまう。
女性に灰がかかると動きが止まり、そこに向けて少女は心臓部分に向けて剣を突き立てた。
すると女性の顔は生前の清楚な顔立ちに戻り、涙を流しては懇願する。
「お願い、消滅したくない。せめて、成仏させて・・・」
少女に対して手を伸ばそうとした時に呟いた。
「だったらさ、自殺なんかするなよ」
剣を深く入れた途端、女性は煙のように消えていった。
これが霊が完全に消滅する時に見せる光景であり、成仏もできず、地獄にも落ちなかったことを意味する。
少女は剣を上に放り投げると、それは吸い込まれるように消えて行った。
少女が屋上から出ようとした時、排水溝に落ちている片方だけのハイヒールがあった。
あの女性の霊が生前に履いていたものかもしれない。
こんな窮屈なものをどうして履きたがるのか、スニーカーかローヒールしか履いていない少女には理解ができなかった。
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