小さなウサギの物語(LARPイベント「終局世界物語」二次創作)
@dd-slayer
Chapter 1 僕の名前は -my name is……-
僕は宇佐義彦。ひとは僕のことを「ウサギ」と呼ぶ。
「宇佐義」だからウサギ。
すぐ泣いて、すぐ逃げ出すからウサギ。
自分の嫌なところが、全て詰まっているような気がした。
だから、僕はこのあだ名が嫌いだった。
僕には両親がいない。10歳の頃に離婚して、母親が僕を引き取った。
母は僕を養うために、働きに出て家を空けていることが多かった。
友達もいなかった。
友達が欲しくて、そのために努力もしたけど、できなかった。
みんな僕から離れていった。それがたまらなく辛くて、悲しかった。
一人にはなりたくなかった。でも、僕はずっと一人だった。
そんな僕のただ一つの心のよりどころは、テレビのヒーローだった。
「俺の助けを一人でも必要とする人がいる限り、俺は絶対にあきらめない!」
両親が離婚したその日、家に一人残されて、現実から目を背けるように見ていたテレビのヒーローのセリフだ。
カッコよかった。ボロボロになっても、誰かのために戦う姿が、悔しくて、羨ましいくらいにカッコよかった。
ヒーローみたいに、僕が、もっと強ければ、僕に、もっと勇気があれば……それは空しい想像でしかない。
僕は弱い。勇気もない。
情けないまま年を重ねて、情けないまま死んでいくのか―――心の奥では、ずっと小さなウサギが泣いていた。
死んだような目で毎日を送る僕を変えてくれたのが、グリーンウッドだった。
グリーンウッドは、障害を持った子供たちが集まる施設だ。
何回目かの転職を繰り返した末に、僕はここにたどり着いた。
あわただしい毎日だった。何かを考えたり、感傷に浸る暇なんて与えてくれないほど、毎日何かが起きていた。
エネルギーの在り余った子供たちを相手にして、僕も少しずつ、何かが変わっていた。
子供たちは僕のことを「ウサギ先生」と呼んだ。最初に呼んだのは、カンちゃんという男の子だった。
「宇佐義」だからウサギ。
よく泣くけど、みんなと真剣に付き合って、遊んでくれる優しい先生だからウサギ。
だから「ウサギ先生」―――それがあだ名の理由だった。
みんなも僕を「ウサギ先生」と呼ぶようになった。先輩の先生たちも。
母は、グリーンウッドに勤めて以来、僕が「よく笑うようになった」と言ってくれた。
グリーンウッドは、そこに関わる人たちは、僕の中で、とても大事な存在になっていた。
少しずつ、明るい道に向かって僕は進んでいた……はずだった。あの日までは。
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