浪人生の苦悩

@shimizu526

ある浪人生の苦悩

ある所に浪人生がいた。彼は浪人生でありながらも勉強が出来なかった。能力として出来ないのでは無い、精神的に勉強が出来なかったのである。

彼の年齢は19歳、昨年の受験に失敗し浪人生となった。彼も最初は一念発起し大学に合格してやろうと毎日毎日予備校に通い、日に十時間以上も勉強していた。では彼にいったい何が起こったのか、何が彼を変えてしまったのだろうか。彼は予備校に通い、講師の話を聞き、しっかりノートを取っていた真面目な生徒だった。彼は大学に行ける十分な学力を有していた。しかし、友達は一人もいなかったのだ。高校時代の友人は皆大学生となり誰一人としても彼を思いやってくれなくなった。「親友だよ」と言ってくれたあの子すらも大学に入学して少しすると連絡をくれなくなった。あの子だけでも、一人だけでも彼を想う人がいたのならば彼はもっと上手く生きていくことができただろう。彼にとって友人はそれほど大切な存在だった。

予備校にも人間はいる。ならば友達を作ればいいじゃないかと思うだろう。しかし彼は浪人生同士の馴れ合いなんかいらないと尊大な自尊心で人と関わらなかったし、そもそも人が怖くて関わろうにもそれが出来なかったのだ。

時が経るにつれて予備校内にも人間関係が生まれてくる。昼休みに談笑している人達を見ると、講師と親しく話している生徒を見ると彼の心の内に黒い塊が出来て、大きく膨れ上がっていった。それでも彼は勉強を続けた。(大学に行けば俺は変われるんだ……)そう自分に言い聞かせながら。

親からは「お前を予備校に行かせるために何十万も使っているんだぞ」、「お前は何を考えているんだ…」そんな連絡ばかり、彼は思っていた(誰も俺の心を見てくれないんだ)、(何を考えているのかだって、俺にもわかんねえよ)黒い塊は日に日にますます膨らんでいった。

それでもまだ彼は勉強を続けた。親の言うことは正論でお金のことも申し訳ないと思っていたから。家に帰っても一人、予備校でも一人、その二つを行ったり来たりそんな生活を数か月続けていた。

ある時、予備校の昼休み周りの人間が談笑しながら昼食を食べているとき、彼は一人コンビニで買った弁当を食べていた。そのとき、黒い塊が爆発して噴き出した。彼は泣いた。机に顔をうずめ他人にばれないように泣いた。(俺は一人なんだ…)、(友達も作れない、先生とも上手く話せない、俺はいったい何のために…これじゃあ大学に行っても同じだよ…)

黒い感情が嵐のように彼に覆いかぶさった。周囲の人間は彼が泣いていることは知る由も無くはしゃいでいる。

彼はトイレに駆け込み吐いた。この腐りきった感情を吐きだそうとして吐いた。でもなにも変わらない。動悸と眩暈が彼を襲う。ふらつきながら個室から出る、そして鏡を見た、目が赤くはれ顔は青くなっていた。

もう予備校には居られなくなった。彼はバッグを持ち早歩きで、早退届も出さず一人の部屋に帰った。それから彼は予備校には行けていない。好きだった読書も映画も頭が受け付けなくなっていた。いま彼にあるのは絶望と孤独それと希死念慮だけ。

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