妖怪萌え娘

@tunetika

第1、2,3、話

第一回

 夏目房の進 夏目漱石の孫、漫画評論家。ときどき親子漂流教室の司会も務める。

 滝沢繁明  日本最大の男性アイドル事務所ヤーニー事務所に所属する男性トップアイドル。お猿の絵を描くのがうまい。「ヤーニちゃんのお猿」。同じ事務所に所属するツバメくんと大の仲良し。

 鈴木あみ子 日本人なのになぜかメキシコ国籍を持つ不思議な女。最近すっぴん写真集を某出版社から発刊した。

 原た泰三  最近、石原軍団を首になった浅草人情喜劇出身のトリオコメディアン逆さ金時の一員で自宅で光しいたけを栽培しながらトリオを経済的にバックアップする。実は日本ハム創業者の実の忘れ形見。現在の社長は赤ん坊のときにすり替えられた偽物である。

 モンモン娘 いつも太鼓を叩きながら悶々としている性的欲求不満女の集団。実は人間ではない。公安のブラックリストにのっている。

 井川はるら いやし系、グラビア美女 



 モンモン娘の魔手を逃れた夏目房の進は東京を離れるいい口実が出来た。彼が出入りするテレビ局から夏目漱石についてレポートをやらないかと打診を受けたからである。出張先は那古井の温泉である。そのことはまったく彼にとってはわたりに舟だった。モンモン娘のモンモン三号こと安部なつみかんと云うのは仮の名前で実は北朝鮮出身のキムキムという本名の暗殺者だったからである。薄汚いジャージ姿を好むのは本国でのマスゲームにあまりにも慣れ親しんだせいだったからだ。彼女が男が陥りやすいどんな誘惑の方法を使って夏目房の進に近づいたのかはここでは書かない。そして北朝鮮の秘密工作員というのも仮の姿でまだこの地上が混沌としていたときに人間とそうでないものが地上に存在していたときの生きている形骸だった。どんな力が成し遂げたのかは知らないが、妖怪、魑魅魍魎の類は暗い地下に封印されていたがモンモン娘は人間の姿を借りてこの地上に生息し続けていた。そして悪事を繰り返していた。

 扉が間一髪でしまったとき安部なつみかんは地獄の幽鬼のようにどす黒いこの世の中の邪悪なものをすべてこね合わせたような瞳で夏目房の進を憎々しげにみつめた。しかし手遅れだった。すでに列車は出発して彼と彼の安全を確保して彼は旅の旅情に身をゆだねていたからである。         





第二回

 列車がカーブを曲がるたびに車窓の窓枠がぎしぎしと音を立てる。遠心力で肘に変な力が加わって肌がこすれる感じである。そしてそのたびに列車が走ることで生ずる薫風が頬を心地よくなでていく。夏目房の進は車窓に肩肘をかけていたので列車の振動が伝わって心地よい。自分の髪を後ろになでつけていくようだった。この列車の着くさきにはモンモン娘なんかは住んでいない。モンモン娘のような邪悪なものは東京に残してきた。モンモン娘の罠に陥ったことをひどく恥じていた。人間の女に騙されたのならまだいいのだが相手は妖怪である。おんなを使って身体を押しつけてきたのだ。不愉快だった。妖怪め。

夏目房の進は気分を変えるとかばんの中から、そこに入っている帝国地理院発行の五万文の一の地図を膝の上に広げて余を待つ温泉の印をしかと確かめてみる。温泉の名前は那古井温泉である。塵埃を離れた清涼の地にモンモン娘などという不浄の生き物はいない。神が姿を変えた森の魚や清冽な滝が余を待っている。しかしそういう美しいものを思いながらあのもんもん娘の姿が頭をかすめたので余は不愉快になった。とくにあの安部なつみかん、余は自分の土地の名義をあやうく奪われるところだった。そこで余はまた頭をふるってそのいやな思い出を振り払うのだった。あの清らかな景勝の地のことを考えようと思った。すると緑の樹木の中にひっそりと隠れすむ滝や、霊験あらたかな神泉がまたまぶたに浮かぶのだった。自然の人智を越えた驚異で作られた巨岩に囲まれた温泉の薬効あらたかなる香りも目の前にあるようだった。


第三回

 途中で列車は停まって窓の外に弁当売りがやってきた。余は峠の釜飯と素焼きの土瓶に入った茶を買った。窓越しに弁当売りに千円札を一枚出して百二十円のばら銭を弁当売りは余に手渡した。そのとき列車はまたごとりと鉄車を回して動き出した。走りゆく後方に首からかけた弁当のかごが軽くなった弁当売りの善良な姿が小さくなっていき、余の旅はまた始まった。

 列車の中でうとうとして目がさめると目の前に座っていたじいさんは余の隣の男と話しを始めている。この爺さんはたしか前の前から乗った田舎者である。頭がカラスウリのようにはげ上がっている。白い開襟シャツは黄色じみている。足には汚れたゴム長をはいている。発車間際に素っ頓狂な声を出して乗った爺さんは突然、余の前の空いている席に座って大事そうに抱えていた和竿を自分の横に置いていたのだけは記憶に残っている。和竿の横には竹で組んだ古雅な魚駕籠が置いてあった。

 隣の男がいつ乗ったのかは記憶にない。野蛮人のような顔をしているのに分厚いめがねをかけて神経質そうに自分のかばんを後生大事に抱いていたから最初は銀行員かと思った、それでもなければ司法試験の受験生かも知れない、しかしそうでもないらしい。そして挙動不審である。邪悪な表情をしていれば犯罪者である。よくテレビドラマに出てくるではないか。凶悪な脱獄犯が生まれ故郷に戻って来る設定が。故郷が純朴であればあるほど浮き世離れしていればいるほどドラマの効果は上がる。しかしそれは想像の世界のことでその男が犯罪者であることはないだろう。めがねの中のぎろりとした目がそわそわと動いている。そして彼を貧書生だと判断した理由はかばんから出した粗末な仮綴じの論文を読み始めたからである。それがなぜ論文だったかと云うと紙片の最初のほうにオスカー・ワイルドのキリスト教とのかかわりと書かれていたからである。とすると学校の教師か、余にはひどくつまらないものに思われてその男に興味も払わずこれから訪ねる温泉のひなびた素晴らしさを思い描いてその男どころではなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る