第2話 スマホ
「それじゃあ始め」
榎本先生の指示で一斉に問題を解き始めるクラスメイトたち。
しかし私は慌てない。
右手でそっと髪を撫でると、シャーペンを持ち設問を読み始めた。
◇
今回の作戦は単純で、設問をスマホで伝えて協力者に答えを教えて貰うのだ。
よく大学入試なんかで話題になるカンニング方法だ。
カンニングビギナーたちはネットの掲示板などを通じて答えを聞くそうだが、それはあまりにリスクの高い行為だ。
なぜなら相手に設問を伝えるためには、どうしてもスマホを操作しなくてはならないからだ。
一度前から教室を見渡したことのある者ならわかるだろうが、生徒の思っている以上に教壇からは一人一人の様子がよく見える。
頭の角度なんかを見れば居眠りはもちろん、スマホの操作をしているのだってバレバレだ。
それが通路を巡回する試験官ならなおのことだ。
ではその問題点をいったいどう攻略するのか。
その鍵はモールス信号にある。
電信で用いられている可変長符号化された文字コードのことをモールス符号といい、モールス符号を使った信号をモールス信号と呼ぶ。
このモールス信号を用いれば、スマホを操作することなく協力者に設問を伝えることができるのだ。
用意するのはスマホとBluetoothのイヤホンだけだ。
あらかじめスマホと接続しておいたイヤホンを右耳につけておく。
幸い私の席は廊下側の壁際であり、先生が巡回する際に右側を通ることはない。
それに私の髪はそれなりに長い。
下ろしてしまえばイヤホンごと耳を覆うことくらい容易い。
左耳につけないのは外界の情報を完全に遮断してしまわないようにするためだ。
設問の訂正などを聞き逃してはもともこもないからな。
モールス信号はシャーペンで表現する。
短音は机を叩き、長音は机をサッと引っかいて発信する。
この日のためにモールス符号は全て頭に叩き込んできた。
後は机の中に仕込んだスマホを通して協力者に信号を送ればいいだけだ。
トツートトト、トトツー、トトツートト、トトツー
『応答』
「……」
おかしい。
協力者から応答がない。
聞こえなかったか?
少し強めに叩いてみる。
トツートトト、トトツー、トトツートト、トトツー
『応答』
「……」
やはり返事がない。
いったいどういうことだ?
協力者にはこの時間に待機するよう伝えて……。
「あっ……」
「御堂、どうかしたか」
「い、いえ。
なんでもありません」
(しまった……
協力者を用意するの忘れてた……)
こうして本日のカンニングも楓の敗けで幕を閉じた。
ちなみに小テストは自力で解いて満点だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます