雨の日の恋

こばや

第1話

『6月19日木曜日

 本日の天気は曇りのち雨


 折り畳み傘を持っておくと便利でしょう』


 ある少年が学校へ向かう準備をしてる時にテレビの天気予報でそう言っていた。


「サボろうかなぁ……」

 その少年がポツリと言った。

「またそんなこと言ってんの隆一りゅういち

 いいから早く学校行きなさい」

 隆一と呼ばれた高身長で黒髪の少年が、母親らしき人に先程の言葉を聞かれ、追い出されるかのように家を出た。そして学校に向かった。



 一ノいちのせ隆一は雨が苦手である。

 雨そのものが嫌いという訳ではなく、雨の日の学校が嫌いなのである。

「降るとしたら夕方以降で


 至福の時間をあのバカどもに潰されたくない」理由は、普段は休み時間中外で遊んでる陽キャや運動部 が雨の日はこぞって教室でワイワイ騒ぐからだ。

 そして一ノ瀬隆一はと言うと、休み時間中は読書に耽っている。特に決まった作者はいないがとにかく文章を読むと落ち着くようなのだ。


 そして案の定と言うべきなのか、口は災いの元と言うべきなのか。

 昼前にして雨が降り始めた。


「……でさー」

「何それ意味わかんなーいwww」

 昼休みの教室は雨の日だといつも騒がしい。

「はぁ、だから雨の日は嫌いなんだ」

 そう言いつつも自分の席でおもむろに本を読みだす隆一。

 それを見て興味を示した1人の金髪でポニーテールの小柄な女の子が集団の中から抜けて隆一の元に歩き出した。

 金髪のポニーテールを左右に揺らしながら徐々に隆一に近づくが

 隆一は本を読むのに夢中で前方から歩いてくる女の子に気づけなかった。


「ねぇ、いつも何読んでるの?」

 そしてその子は隆一に話しかけた。

「ふぇ!?え、あ、俺!?」

 あまりにも普段家族以外と喋らないからか隆一は挙動不審になった。

「そう、俺。何ビビってんの、ウケるww」

 その様子を見て大変おかしかったようで彼女は笑っている。

 隆一もつられて笑ってしまう。こっちはつり笑いではあるが。

「あ、あはははは。

 えっと確か名前……白百合しらゆりさん、だっけ?」

 人との関わりはないにしろ彼女の苗字は把握していたようであり、なんとかひねり出したようであった。

「もしかしてあんま覚えられてない?

 ひっどいなー、2ヶ月は一緒なのに覚えてないなんて」

 しかし彼女もそれを感じ取り少し不機嫌になっていた。

百華ももか白百合百華しらゆりももかだよ。

 覚えてよね。

 何読んでるのかなーって気になってたけど今日はもういいや。

 また明日くるね」

 そう言って百華は隆一の元を離れ元の集団に戻っていった。




「なんだったんだろう」

 そう言いながらも隆一はまた本を読み始めた。


 そして何事もなく、雨も止むことなく放課後になった。

 普段ならホームルームが終わったと同時にそそくさと帰る隆一だが、今日は下校時間ギリギリまで残っていた。


 理由はといえば

「傘が密集してる中歩くのはイライラする」

 という単純なこと。


「さてと…そろそろ人減ってきたし帰るかー



 ん?」

 隆一が帰るために下駄箱のある1階へ向かおうとすると、空き教室に一人の女の子がいた。

 小柄な黒髪ショートヘア女の子だった。

 窓縁に腕をのせ外をじーっと眺めてる彼女に見惚れたのか、その姿を隆一は廊下でただただ眺めていた。

 やがて視線に気づいたのか彼女が振り返ると

「あれ?一ノ瀬じゃん

 こんな時間までなんで残ってるの?」

 と彼女は隆一に親しげに話しかけてきた。

 だが隆一の反応は

「え…あの…初めましてな気がするんですが……」

 というものだった。


 彼女は疑問に思ったがやがてその問題が解決したのかこう言った。

「あー、ごめんね。そうだったよね。


 ごめんごめん、はじめまして一ノ瀬くん」

「え、あ…はい、えっと…名前」

 隆一は何が何だか分からないながらもなんとか名前を聞こうと努力した。

 その意図は彼女に伝わり

「あー、いきなり変な態度でごめんね

 一方的に知ってたらそりゃ困るよね


 えっと名前は…黒…そう!

 黒木田くろきだ はな!」

 と、何やら考え込みながら彼女は自分の名前を名乗った。

 腑に落ちない点がありながらも納得して、隆一は続けて質問をした。

「それで、黒木田さんはどうしてまだ残ってるの?下校時間ギリギリだけど」

「それは一ノ瀬くんもじゃん。

 なに?もしかして私みたいに居残ってる女子を狙ってたりしてたの?

 やらしー」

 花は隆一の質問を答えるのかと思いきやはぐらかし、からかい始めた。

「そんなんじゃないって!

 狙ってたとかじゃなくて…その雨が……苦手で……」

 自信満々に答え始めた隆一だが徐々に弱々しくなっていった。

「なんだよも〜、調子狂うな〜」

 隆一が弱々しくなる姿を見て困ったかのようにこめかみをポリポリとかく花。


 そこからしばらく沈黙が続いた。


 最初に沈黙を破ったのは花であった。

 しかも意外な言葉のおまけ付きで


「ねぇ!今からデートしようよ!


 雨の日の楽しみ方2人で見つけちゃえばさ少しは雨の苦手意識減るっしょ!!」

「えっとつまりどういうこと?」

 花の提案に混乱する隆一。

 そこに花はトドメの一撃を放った。


「だーかーらさ!!


 雨の日は私と付き合ってって言ってんの!!!」


 こうして花と隆一は『雨の日限定の恋人』という不思議な関係になった。

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