番外編 それぞれの休日Ⅱ
それぞれの休日 雫1
ある日の昼休み。
同じクラスの女子生徒と教室でお弁当を食べていた時のことだった。
「神崎さんはいいよね、荻原君みたいなイケメンなお相手がいて」
突然、一人の女子生徒がそう話を始めた。
「本当だよね!」
「休みの日は二人で出かけていたりするの?」
それに便乗するかのように、二人の生徒が同じように質問を投げかけてくる。
この手の質問や話は、今に始まったことではない。
私はいつもと同じ答えを返す。
「私は荻原君とは付き合っていませんから……」
私と荻原優斗君とは、ただの友達。
中学のころからの知り合いで、同じ高校に通う一人の友人。
そう何度も答えているのに、同じような質問を彼女たちは繰り返す。
似たような話をされるたびに、私は自分でもわかるほど冷めきった笑みを浮かべる。
「またまた~、でも荻原君とお似合いなのは神崎さんか綺羅坂さんくらいだもんね」
「綺羅坂さんも見た目は完璧だからね」
彼女たちは席に座り、一人読書をしていた綺羅坂さんに目を向けながら言った。
確かに、綺羅坂さんなら荻原君に釣り合うだろう。
むしろ私としては、彼女にぜひとも荻原君と付き合ってもらいたい。
そうすれば、今のように私に話が振られることもなくなるだろう。
でも、彼女が荻原君と付き合う可能性は、おそらく微塵もない。
そもそも、荻原君が綺羅坂さんへ好意を寄せているかどうかは置いておくとして。
彼女は荻原君を毛嫌いしているのだが、それ以上に問題が一つある。
私にとっては、何よりも大きな問題が……
「でも、最近隣に座っている真良君と話をしている姿を見かけるよね」
「そういえばよく見かける気がする……案外声を掛けたら気軽に話せるのかな?」
彼女たちは、不思議そうにそう話す。
でも……そうじゃない。
彼女が彼、真良湊君と話をしているのはただ単に席が隣だからでも、実は話しやすい人だからでもない。
湊君に特別な感情、または強い興味があるから。
でなければ、彼女は今のように手元の本に視線を落としたまま、何事もなかったかのように話しかけてきた生徒を無視するだろう。
だからこそ、私にとってはどんな生徒よりも要注意な人。
何をしていても、彼女は常に湊君に目を向けている。
些細なことで、彼をからかうように声をかけている。
湊君も、最初は少し彼女を怖がりながら返事をしていたようだけど、今では慣れたように適当に言葉を返している。
決して仲良くは見えない二人の関係に、私はひどい焦りを感じていた。
これまで、私以外で湊君と楽しそうに話をしている女の子なんて妹の楓ちゃんを除いてみたことがない。
一見、ごく普通の男の子。
容姿も、成績も、運動神経もどれも平凡という言葉がふさわしい。
それゆえに目立つことがなく、女子生徒の視線は自然と同学年の荻原君に向けられていた。
だから、これからも変わらないと考えていた。
私だけが、湊君を見ている。
私が誰よりも湊君のことを理解している。
だから、今は胸に秘めた思いを伝える時期ではない。
彼にもう少し私に目を向けてもらうまで、我慢するのだと決めていたのに……
「……そろそろ私も頑張らないと」
窓際に肘をつき、ポケーっと窓の外を眺めていた湊君を見つめながら、私はそう呟いた。
それと同時に、絶対に聞こえているはずもないのに、湊君が視線だけこちらに向ける。
目と目が合い、自然と鼓動が早くなった。
眠そうに開かれた目で、湊君はただじっとこちらを見つめる。
女子同士の会話への興味か、それとも私に対しての何かしら思うことがあり見ているのか。
どちらにせよ、顔が少し赤みがかり、自分の体温が上昇しているのが容易にわかる。
私は誰にも気が付かれないように、小さく笑顔を向けた。
湊君は、小さくため息を零すと、自分の左手で口元を指さすような動きを見せる。
「……?」
私も同じように口元を手で触れると、お弁当のおかずのソースが付いていたのに気がついた。
「さ、最悪です……」
それで湊君はため息をついていたのか……
先ほど以上に、恥ずかしさから顔に熱を帯び、彼から目を逸らす。
きっと呆れているに違いない……
チラリと確認のため、湊君にバレないように顔を上げると、湊君の視線はすでに窓の外に向けられ、代わりに隣に座る綺羅坂さんのニヤついた表情が写る。
「本当に……最悪です!」
絶対に彼女には湊君は渡さない。
彼の隣は私が立つと、昔から決めていたのだから!
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