第四章 先輩と後輩4


「いえ……入学して一か月で生徒会に入るというのは、周りからも不自然だと思われるんじゃないかと」


「ふむ……確かにそうだな」


 会長は背もたれに深く寄りかかり、天井を見上げる。

 何やら考えている様子で、俺と火野君は会長の言葉を待つ。


「火野の得意なものは運動と料理だったな?」


「え?はい、そうです」


 妙案でも思いついたのか、会長は指を鳴らし立ち上げると、火野君に確認をした。


「生徒会役員になるには大まかに三つの方法がある、一つは生徒達の投票によるものだ」 


 会長は俺達の横を通り過ぎ、生徒会室の端に置かれていたホワイトボードの前に立つと、そこにペンで文字と簡単な図や絵を書き始める。


「二つ目は、生徒会長が人員補充が必要と判断した時に、今回のような推薦状を学校側に提出することで役員に指名することができる。これは生徒会担当教員の認可が必要だ」


 凛とした見た目や、立ち振る舞いとは裏腹に、可愛らしい人の絵が会長によって生み出される。

 会長本人と火野君、おそらく学長と思われる人物は、絵本に出てくるキャラクターのようだった。


「最後に三つめは、ありがたいことに学校側から私のことを高く評価してもらえたことで、一名のみ会長指名枠として生徒を選ぶことができる……まあこれはすでに使ってしまったのだがな」


 そんな権利までこの人は学校側から貰っていたのか。

 流石、歴代最高と言われている生徒会長だ。


 だが、その枠が残っていたとしても、どうせ火野君には使用できないだろう。

 二年生を選ぶならまだしも、入学したばかりの一年生を選んだとなれば黙っていない生徒もいるだろう。



「今回、火野君には二つ目の推薦状を提出して生徒会へ加入してもらうことになるのだが、幸運なことに現在の生徒会は、私を含め三名しか役員がいない」


 確かに生徒会室を見渡すと、いくつか何も置かれず未使用になっている机がある。

 使用されている机は、どれも会長の席に近くで副会長と会計のプレートが置かれている。


 まだ会長の話しの先が見えない俺達は、会長の話に静かに耳を傾ける。


「会計は女子生徒に任せてあり、副会長は男子なのだが、優秀なのに気弱で力も弱くてな……荷物運びは大体一般の生徒に頼んでしまう」


 そこでだ!と、会長はバンッとボードを右手で叩き、左手で火野君を指さす。


「常々、担当の先生とも力仕事を任せることのできる人員を補充したいと話していた。その点、君なら問題もないだろう」


 確かに、運動が得意という火野君なら体力も申し分ないだろう。

 しかし、問題があるとすれば……



「残るは君の評判だが……」


 会長は再び自分の席に腰を下ろすと、一つのクリアファイルを取り出す。

 俺達の前に置かれたファイルの中には『一年二組火野大樹』と書かれたプリントが挟まれており、そこには入学から一か月の間に生徒から報告のあった問題が記されていた。


「一か月で七件、私が生徒会に入ってから一位の記録だな」


「すいません……」


 会長の言葉を聞き、一層顔色を悪くした火野君は俯き謝罪の言葉を口にした。


「君が謝る問題など一つもない」 


 しかし、彼とは反対に生徒会長は優しい笑みを受けべる。


「私は偏見や憶測、噂での報告など真に受けない、自分の目で見たものしか信じないからな」


 会長はファイルに挟まれていた、生徒からの報告書を半分に破くと、そのままクシャクシャに丸め、ゴミ箱に投げ入れる。


「私は、君とこうして話しをしてみて評判通りの人間とは思わない、人に害を与えるなんて想像も出来ないしな」


「はい、妹が間接的に害を受けています」


「真良は少し黙っていてくれ」


 俺はその言葉に異を唱えると、会長は今日一番の笑顔でこちらに顔を向ける。

 その笑顔は「何も言うな」と言われているかのようだった。


 


「君の評判はこれからの頑張り次第で変えることもできる、友達も必ずできる」


 この一言が、火野君の下がっていた顔を上げた。

 友達が沢山欲しく、自分の印象を変えたいと言っていた彼にはまたとないチャンスだろう。


 彼は会長が差し出したペンを受け取ると、署名欄に自分の名前を書き込む。


「……ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


「ああ、先生の認可については私も力を尽くそう……だが、これからは生徒会の一員となるのだから、犯罪まがいな行動をしたら覚悟しておけ」


 

 最後に一言、火野君に釘を刺すと彼は大きく一つ頷いた。

 それを見た会長は、再度笑みを浮かべてこちらに視線が移動する。


「これでいいだろうか?」


「……そうですね、これで火野君が会長の下で変な行動をできなくなるのであれば俺からは何も……」


 会長からの最後の確認の問いに、俺は小さく頷くと隣の火野君に言い残したことを思い出した。


「もう二度と妹の写真なんて買うなよ」


「わ、分かりました!これからは直接撮らせてもらえるように先輩にお願いをしようと思います!」


「……お前本当に分かってる?」


 いまいち彼の言葉を信じられないが、この先は会長に任せることにしよう。

 話しも終わったことだし、俺は一足先に家に帰る為に生徒会室から出ようとすると、会長から一言声を掛けられた。


「では、二人ともこれからよろしく頼む」


「……ちょっと待ってください、二人ってなんですかね?」


 すぐに会長の前に戻った俺の質問に、会長は「あぁ」と声を漏らすと…… 


「真良は連休前に会長指名枠で書記にしたんだ、だから君も生徒会の一員だ」


 

 こうして後日、生徒会長からの説得もあり一年生の火野大樹と、なぜか知らないところで話が進んでいた俺の生徒会への加入が学園側から正式に認可された。

 

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