第二章 学力テスト9


 翌朝、目を覚ました時には嵐のように吹き荒れていた雨風は止み、どんよりとしていた空は、雲一つない快晴へと様変わりしていた。


 予報より早く天気が回復したのは良いことなのだが、台風や大雨などは密かにテンションが上がってしまうのは俺だけなのだろうか。


 郵便ポストから朝刊を取るため外に出ると、昨日の悪天候を少しばかり惜しんでいる俺とは違い、家の前の道を散歩する犬の足取りは軽快だった。


 昨日は天候のせいで、満足に体を動かすことができなかったのだろう。

 尻尾を高速で振る犬に自然と頬が緩む。

 


「兄さん、朝食の時間ですよ!」


「はいよ」


 家の中から楓の呼ぶ声が聞こえ、玄関に戻る途中に体を大きく伸ばす。

 関節がポキポキと鳴り、寝起きで重く感じていた体に力が戻って来る。


 先ほど俺が一度リビングに入った時は、雫も綺羅坂もまだ寝間着のままで、普段見られない新鮮な二人を見ることができたが、少し外に出ている間に三人は着替えを済ませていた。


 寝起きの二人を見ることができたので一つ分かったのだが、俗に言うすっぴんのはずの二人の顔は普段と何ら変わらない。


「……二人は化粧とかしないのか?」


 興味本意で問いかける。

寝癖を整えていた二人は、さも当然のように返す。


「私は特にしませんよ?」


「私もしないわね」


 やはり二人は化粧などしていないのか……

 何もしないでここまで容姿が良いのなら、軽く化粧をしたらもっと綺麗になるのだろうか?


 

 ちなみに楓は普段リップクリームを付けているくらいだ。


 楓の容姿についてはあまり触れていなかったが、兄の俺が普通過ぎて、良いところを全て妹に注ぎ込まれたのだろうかと思うほど楓は可愛いと思う。


 やはり遺伝なのか小柄だが……


 しかし、よく見ると俺の家にいる三人が街に出たら、美少女三姉妹と間違えられてもおかしくない。 

 三人とも黒髪で容姿が良くて、背丈も綺羅坂、雫、楓の順に綺麗に斜めに下がっている。

 


「……俺よりも家族に見えるな」


 思わず呟く俺に、彼女たちは


「こんな人と家族なんてごめんだわ」

「こんな人と家族だなんて悪い冗談です!」


 寝床を共にしても、仲の良くなる気配のない二人と


「私の兄妹は兄さんだけです!」


 眩しい笑顔を見せている楓


「……俺の気のせいだった」


 仲良く話をする三姉妹など、微塵も想像することができず、俺はすでにテーブルに用意された朝食を食べることにした。




 朝食が終わると、程なくして二人は家に帰っていった。

 雫は向かいの家に入り、綺羅坂には昨日楓が言っていた長い車が迎えに来ていた。


 二人に戻った家の中は、急に静かになり、心寂しい気分になる……わけでもなく開放感に満ち溢れた。



 午前中は静かになった家の中でゆっくりと体を休めると、午後からは彼女たちが残してくれたテスト対策の問題を解く。


 こうして俺のテスト勉強の週末が終わった。


 そして、もう二度とやらないと決意した。







 テスト当日の月曜


 いつもなら、時間ぎりぎりまでかけて問題を解いていた俺は、今回のテストでは十五分以上の時間を残し数学のテストを終えていた。


「あいつらの予想問題のままかよ……」


 見覚えのある問題に、彼女達の優秀さと、まるでカンニングのしたような罪悪感の中チャイムが鳴るまでの間、教室の窓から空を自由気ままに飛ぶ鳥を眺めていた。


 翌日に返された答案には、今までで最高得点の九十三点と赤ペンで書かれていた。


 隣でその点数を見た綺羅坂が「まあまあね」と、小さく頷いていた。



 現代文と英語に関しては、勉強をしていなかったので平均点だったが、これが俺の本当の点数だと、なぜか安心感が生まれたのは二人には話さないことにした。


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